町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

らん丈の、落語歳時記 記事一覧らん丈の、落語歳時記

落語歳時記16 「カード地獄」

2001.07.01(日)

 前回は、電車路線によって微妙に異なる美人分布について書きましたが、今回も交通に関することです。ですからタイトルにあるカードといっても、AMEXのゴールドカードやダイナースのように、目の玉が3センチは飛び出すんじゃないかと思うほど高い年会費を支払わなければ会員になれない、(会員となるほどの方にはたかが年会費ぐらい痛くも痒くもない出費でしょうけれど)立派なカードのことでは、もちろんありません。尤も、年会費の高さを心配するようなぼくがカード取得を申請したところで、当然「恐れ入りますが今回はお客様のご意向には添いかねます」との通知が来て、年会費の心配はしなくても済むでしょうが。

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落語歳時記15 「西は美人?」

2001.06.01(金)

 われらの職業は小説家や裁縫師のようないじょく居職とは違って、落語CD等で印税が入るごく一部の落語家を除いては、家にいる限り一切収入がない典型的な出職です。しかも、出社すべき事務所を持たない者が大多数ですので、通う仕事場は日によってまちまちです。したがって、日本全国を股に掛けるといえば体裁はいいのですが、実際はメガロポリスの首都圏をあっちへ行ったりこっちへ来たりしつつ、合間を縫って地方回りもして、生きる糧を得ているのです。しかも、車はおろか運転免許も持たないぼくは移動の手段をもっぱら電車に頼っています。ですから、東京近郊の鉄道には大方乗っています。たとえば、東葉高速鉄道や北総公団線、あるいは東武亀戸線等の地域密着型の路線は、沿線にでも住んでいないかぎり、なかなか乗るチャンスはないでしょうが、声がかかれば地獄以外のどこにでも参上する落語家は、いずれも既に制覇しております。そんなに威張るほどのもんじゃありませんけど。

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落語歳時記14 「マック父さん」

2001.05.01(火)

 何につけ東京と関西では微妙な違いがあります。落語における彼我の違いを論ずれば、結構好いエッセイが書けることでしょうが、それは適任者にお任せするとして、ぼくはもっと細かいことを書きます。たとえば、ケンタッキーフライドチキンを東京ではケンタと略しますが、大阪ではケイフラと言います。マクドナルドは東京ではマック、大阪ではマクドと言うのです。斯くの如く東と西では違うのですが、共通しているのは、平成不況です。ついに日本経済は、デフレスパイラルへと突入してしまいました。

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落語歳時記13 「結婚疲労宴」

2001.04.01(日)

 初夏を迎え、陽気が好くなってまいりますと、人も生き物、やはり活動的になりますね。すると、どうなるか。人は結婚したくなるのです。と書くと、我が田に水を引くそしりを免れませんが、1,2月に較べれば、この時期の方が圧倒的に結婚式を挙げる方が増える。

 結婚すれば、たいていの方は披露宴を催します。さすれば、我らの出番と相成るわけです。たしかに、最近の若者には器用な方が増え、新郎の友人が披露宴の司会を勤めることが増えてきましたが、ここはやはり我々プロにお任せいただきたい。素人さんが玄人の職場を荒らしちゃあいけませんや。餅は餅屋と、言うではありませんか。

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落語歳時記12 「弁慶の泣き所」

2001.03.01(木)

 落語家と他の職業人と最も違うところはどこか、と問われれば、ぼくは何のためらい躊躇いもなく「弁慶の泣き所」と答えます。何だそれは、とお思いでしょう。ならば、しばしの間お聞き下され。

 ”落語”ときいて、皆さんはまずどんなことを想像されますか。ある人は、着物と答えるかも知れません。たしかに我々のユニフォームは着物ですから、なるほどと思います。あるいは座布団と答える人がいるかも知れません。TV番組『笑点』の影響もあるでしょうが、落語家は座布団に座って一席うかがうので、これももっともな答えです。古臭い、との感想を頂いたことがありましたが、300年の伝統にのみ眼を向ければ、どんなに年若い落語家でも、爺むさく見えてしまうのも無理はありません。

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落語歳時記11 「冬は燗」その2

2001.02.01(木)

 前号に引き続きまして、冷酒を飲んで正体もなく酔いつぶれ、気づいたときには恵比寿駅のトイレで、玄関の鍵と各種カード、現金が入った財布、預金通帳とその印鑑、メガネと2001年の手帳、住所録、命から2番目に大事なノート、その他もろもろの物が入ったカバンを失くした話の続きです。

 その日、ぼくはそのカバンともう一つ、紙袋を持っていたのです。その中には、刷り上がったばかりの年賀状と古本屋さんでも引き取ってくれなかった本が入っていました。言わば究極の駄本です。

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落語歳時記10 「冬は燗」

2001.01.01(月)

 今月は古来「如月」と呼ばれています。つまり、一年で最も寒い時季なので着物を更に重ね着る意から、「きさらぎ」と呼ぶのかと思っていましたが、さにあらず草木が更生する「生更ぎ」がその本意だそうです。なるほど、辞書と芸者さんは引いてみるものです。

 草木は更生する時季でも人間は格好の燃料がなければ、この寒さです、なかなか更生できません。そこで呑める人は自ずと酒で心身を暖めたくなってしまうのです。暖めるのですから酒は燗でなくっちゃね。世界広しといえども、酒を温めて飲むのは日本人ぐらいだそうでして、紹興酒も中国の方は温めないで飲む、と聞いたことがあります。

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落語歳時記9 「目出度くないお正月」

2000.12.01(金)

 読者の皆さん、明けましておめでとうございます。明けて迎える新世紀、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 尤も落語家にとっては、21世紀になろうと、取り敢えず何の変化もありません。元日は何はともあれ師匠のお宅に参上して、新年のご挨拶を申し上げます。師匠が存命の落語家ならばこれは絶対のことで、余程のことがない限り例外はありません。衣装はもちろん黒紋付羽織袴の第一種礼装です。そうして一門相集って師匠から御屠蘇をいただくのです。その際、二ツ目以上の者は師匠と名入りの手拭いを交換するのが習わしです。つまり、オリジナルの手拭いがないことには噺家は、お正月を迎えられないのです。これが結構馬鹿にならない年末の出費となります。

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落語歳時記8 「師匠走る」

2000.11.01(水)

 いよいよミレニアムの変り目、20世紀最後の「落語歳時記」となりました。とは随分と大仰な物言いですが、虚子の有名な”こぞ去年今年貫く棒の如きもの”という句が示すように、世紀が変わろうと(性器が変わったら大変ですが)、落語家ごときの暮れから正月にかけての生活は、何らの変化も来さないことでしょう。

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落語歳時記7 「秋は旅」

2000.10.01(日)

 天高く馬肥ゆる秋とはよく言ったもので、たしかに食欲の秋です。なかで忘れてはいけないのが、旅行の秋です。もっともわれわれにとっての旅行とは、プライベートで行く旅行のことで、仕事で行く旅行は、「旅」といいます。これをある先輩に訊いたことがあります。「どうして仕事で地方に行くことを、旅行とは言わずに旅と言うんでしょう」「そんなの決まってるじゃないか。仕事で行くときは、着物を持っていくだろう。着物だけじゃないぞ。帯や足袋だっているぞ。足袋だから旅だ。それに対して旅行となれば、仕事じゃないからカミさんと一緒に行くだろう。そうすれば夫婦仲だって良好になるな。だから、旅行だよ。分かったか?」もちろん全然分かりませんでした。

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