町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

落語歳時記16 「カード地獄」らん丈の、落語歳時記

2001.07.01(日)

 前回は、電車路線によって微妙に異なる美人分布について書きましたが、今回も交通に関することです。ですからタイトルにあるカードといっても、AMEXのゴールドカードやダイナースのように、目の玉が3センチは飛び出すんじゃないかと思うほど高い年会費を支払わなければ会員になれない、(会員となるほどの方にはたかが年会費ぐらい痛くも痒くもない出費でしょうけれど)立派なカードのことでは、もちろんありません。尤も、年会費の高さを心配するようなぼくがカード取得を申請したところで、当然「恐れ入りますが今回はお客様のご意向には添いかねます」との通知が来て、年会費の心配はしなくても済むでしょうが。

 そんな大層なカードではなくて、携帯電話の普及ですっかり落ち目のテレホンカードやJRのイオカードのことです。

 それにしてもカードの種類が増えましたね。ほかにも昨年導入された民鉄のパスネットや、東京近郊でなら公営私バスの区別なく使えるバス〈共通〉カード、JRは将来、定期券とイオカードを併用したようなSUICAという、フルーツみたいなカードも売り出すそうです。以上は、交通機関のカードに限りましたが、これ以外にも、銀行のキャッシュカードやら、ビック、ヨドバシ、さくらや等量販店のポイントカードやら、クリーニング店の顧客カード、果ては呑み屋のメンバーズカード等、財布はパンパンに膨れ上がっているものの中身は紙幣がほんの申し訳程度にあるだけで、厚みのほとんどはカードといった事態になっているのです。ですから札入れとは名ばかりで、カード入れとしか呼べない代物となっております。

 それほどたくさんのカードを携帯しているのですから、さぞや活用しているのかというと、これが憎らしいほど、肝心なときには探しても、ないのです。購入時にカードを見せれば、割引してくれるというので、やっと出番がきたぞといって探すと、これが見事にないのです。たまたま前日財布の整理をして家に置いてきてしまい、肝心なときに役に立たない新婚初夜のインポみたいなものです。

 いつ使うか分からないのに備えているというのは、浮気のために用意した避妊具みたいなもので、情けなくはありますが自らの経験からして永遠に出番はないものと思って、まず間違いはありません。

 そういえば、落語協会副会長の古今亭志ん朝師匠が「年は取りたくないねぇ」と楽屋で始めたのです。何事ならんと、一同の者は息をひそめて次をうかがうと、「いやね、こないだ地下鉄に乗ろうと思って、改札口でいくらカードを入れても、うまくいかないんだよ。おかしいなぁと思ってよく見たら、これがテレホンカードなんだ。まったく同じようなカードがあり過ぎるね」とおっしゃるので、一同の者「たしかに」と、深く首肯したのでした。でもってあのイオカードって、無闇と薄いでしょう。先日、駅のホームで電車を待っていたときのこと、胸のポケットに入れたメガネを取ろうとしたら、何の弾みか一緒に入れていたイオカードまでが出てしまい、それがあろうことか蝶のように線路へと舞い落ちていくではありませんか。取ろうにも、電車はすぐそばまで来ており、とても線路に下りるわけにはいきません。その電車をやり過ごして、落ちたイオカードを見ると、電車の風に巻き込まれたのか、影も形もありませんでした。これを改札の駅員に納得させるのは一苦労でした。人間どこでどんな苦労をするか分らないものです。〔三遊亭らん丈独演会10月29日(月)池袋演芸場午後6時半開演〕