町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

落語歳時記7 「秋は旅」らん丈の、落語歳時記

2000.10.01(日)

 天高く馬肥ゆる秋とはよく言ったもので、たしかに食欲の秋です。なかで忘れてはいけないのが、旅行の秋です。もっともわれわれにとっての旅行とは、プライベートで行く旅行のことで、仕事で行く旅行は、「旅」といいます。これをある先輩に訊いたことがあります。「どうして仕事で地方に行くことを、旅行とは言わずに旅と言うんでしょう」「そんなの決まってるじゃないか。仕事で行くときは、着物を持っていくだろう。着物だけじゃないぞ。帯や足袋だっているぞ。足袋だから旅だ。それに対して旅行となれば、仕事じゃないからカミさんと一緒に行くだろう。そうすれば夫婦仲だって良好になるな。だから、旅行だよ。分かったか?」もちろん全然分かりませんでした。

 それはともかくとして、時代とともに世の中が便利になるのか、それとも逆に不便になってしまうのか、考えさせられてしまうのが、旅に出たときです。早い話が、昼の仕事ならば北海道だろうが鹿児島だろうが、日帰りになってしまいました。せっかく北海道まで行って日帰りですよ。これほどもったいない話はないと思うのですが、帰ってこられるのですから仕方ありません。主催者は、出演者の観光気分まで面倒は見てくれないのです。泊まれば宿泊代はもちろんのこと、食事代や打ち上げの費用まで面倒を見なければいけないのですから、当然といえば当然のことですが。なかには剛の者がいて、泊まったホテルの部屋に備え付けの冷蔵庫の中をすっからかんにして、請求書はプロモーターに届けたそうです。こうなると、呼ぶほうも怖くて冷蔵庫のあるホテルには芸人を泊められません。

 ホテルで怖いのが、乾燥です。いまどきのホテルは、宿泊者の事故防止のためか窓が開かない上に、部屋の室温調節はエアコンディショナーのため、どうしても部屋の中が乾燥してしまいます。そのため、たいていの者は商売道具の喉を痛めないように、バスタブには湯を張ったままにして、床=カーペットに水を撒いてから寝ます。相当撒いたつもりでも、翌朝起きてみると撒いたところがカラカラに乾いていますから、いかに室内が乾いていようかというわけです。敵は乾燥ばかりではありません。打ち上げの席上、同行の先輩がサラリと言うのです。「さっきチェックインしたときフロントで客同士が話してるのがたまたま耳に入ったんだけど、このホテル幽霊が出るらしいな」「えっ、本当ですか?」

 「あぁ、警備のおじさんに念のため訊いたら、口を濁してたから、どうも本当らしい。だってまさか、当ホテルは幽霊が出ます。なんて言えないだろ」こうして、打ち上げの酒は途端に不味くなるのです。それでも、無理に飲んで酔っ払ってしまおうとしますが、逆に眼が冴えてくる始末。部屋に戻っても先ほどの先輩の声が耳について離れません。仕方なく、明かりを付けたまま寝ようとしますが、そうそう寝られるものではありません。明け方近くになってやっととろとろっと寝付いたかなと思ったらもう、起床の時刻にセットした目覚まし時計のブザーに起こされます。朝食会場で諸先輩方に朝の御挨拶をすると、昨夜の幽霊の先輩が「どうだい、ゆうべはよく寝られたかい」「寝られるわけがないじゃないですか、ようやく寝付いたと思ったら、もう朝でした」「何だよ、あの話信じたの?」「えっ、あれウソだったんですか」「当たり前だよ。でもおれに礼を言いな。You礼って」