『都市』第61号・2018年2月
サイレンの入り交じりたる秋祭
秋澄んで腕の時計の新しく
理髪店往きも帰りも野菊愛で
新しきネクタイを締め文化祭
宵闇や売りし本また買ひ戻し
サイレンの入り交じりたる秋祭
秋澄んで腕の時計の新しく
理髪店往きも帰りも野菊愛で
新しきネクタイを締め文化祭
宵闇や売りし本また買ひ戻し
相撲取り仰ぎてゐたる柿の花
新茶汲む永の別れを胸に秘め
桑摘むや今年の雨に怯えつつ
ぼうたんの落ちて逃げるや子どもたち
紫蘇香るきれいに空いた耳の穴
桜見て少しく長く歯をみがく
まづなめて肌を味はふ柏餅
米研がず炊くもありなん花魁草
江ノ島の水族館へ袷着て
哲人の貌の乞食聖五月
久方のカフスボタンや冴返る
白梅を腰を伸ばして見入る母
涅槃雪怒るわけにもいかず寝る
動きゐるやうにも見えて春の土
三月や人生決める本を読む
ちやんちやんこ着てバスを待つ夕べかな
漱石忌卵落としてカリー食ぶ
風邪引の妻の味噌汁味薄し
ジャズピアノ聞きつ賀状の宛名書き
正月来ざふきんのなき家庭にも
ごきぶりを殺してのちの葬儀かな
飼犬の鼻の乾きや熱帯夜
何をしたでもなく迎ふ夏夕べ
都県境の橋渡りつつ秋覚ゆ
美しき人のきれいに汗をかく
媼一段おきに駆け上がる秋
服たたむにも癖があり秋の昼
なめこ汁唇にても味はへり
みの虫の茶は他とは違ふ茶色
飼主も犬も走るや冬ぬくし
白南風の髪の隙間を吹き抜けり
ジャズバーの打ち水をして店開ける
政談を好む子どもの夏休み
車椅子の手を動かすや盆踊り
糸瓜食むことなく五十七才に
小満や本読む眼(まなこ)休めをり
親指に体重を掛け岩魚釣
なすびなりとも端好む考(ちち)なり
好きな人隠しきれずに大花火
完璧な蟹股歩きやませ吹く
山中多美子選(『都市』54号11頁)
襟立てて花見の列に入り行けり
片想ひ独活の天ぷら噛みしめて
スカイツリーエレベータに蝶も乗り
短めに髪切らせゐる薄暑かな
遠くからジャズ聞こえくる麦の秋
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打