『都市』第78号・2020年12月
都市集 中西 夕紀(主宰)選
落第生布巾の黴を見つめをり
百合を持ちあごを引きつつ撮る写真
田水沸くピンポン球が浮いてをり
厚き本車内に持ち込む帰省の子
真剣にアイスクリーム掬ふ母
ざんばらの力士歌いつ門火焚く
都市集 中西 夕紀(主宰)選
落第生布巾の黴を見つめをり
百合を持ちあごを引きつつ撮る写真
田水沸くピンポン球が浮いてをり
厚き本車内に持ち込む帰省の子
真剣にアイスクリーム掬ふ母
ざんばらの力士歌いつ門火焚く
衣更消防団の階級章
裏庭に草茂り居る朝礼台
夏至の日や売るべき本を決めあぐね
紫蘇薬味少し多めに昼の膳
左見右見こはごは掬ふ泥鰌鍋
どこからかフルート聞こゆ苗木市
幾分か帽子目深に卒業生
花冷の茶会に向かふ兄いもと
師の前で若きままなる四月馬鹿
歯がなくも歯を食ひ縛る吹流し
好天に恵まれし日よ大根引く
春立つや広辞苑取る手も軽し
はうれん草箸伸ばす手は真つすぐに
リハビリに励む犬にも春来たる
春の蚊を眼で追ひて犬走り出す
柿落葉はさみ閉づるは福音書
茶の間にていびきかく妻御代の春
ぼろ市や一度帰りてまた向かふ
鮮やかな初夢見たり酒を断つ
初詣同級生へ手を挙ぐる
栗御飯栗から食ぶる夜更けかな
稲刈りて萬年筆を買ひに行く
草紅葉友ゐない子を迎へ入れ
ドラマでは易く人死ぬ根深汁
飼犬の留守番つとむ七五三
遮断機や汗拭ふ人見つめをり
披露宴遅刻する夢残暑の夜
吊橋を親子でわたる終戦忌
洗濯の深夜に及び星月夜
靴の紐締めてゐる間の流れ星
ミサののちふらここを漕ぐ神父たち
蕗噛みて忘れたきこと忘れけむ
勝ちて泣く石榴の花に見つめられ
七夕に男二人で映画観て
雪渓の足跡深く交錯す
手の甲に心覚えや新入生
雁風呂や帽子おさへて急ぎ足
啄木忌震へる手にて書く日記
愛鳥週間啄木の歌集手に
閉店を知らず訪ふ夏の霜
振り向かずとも富士のある冬の空
犬二匹耳そばだてる初音かな
雲間より陽の輝きて大試験
波を見て逃ぐる子のゐる磯開き
初蝶に大気揺れゐて日も揺るる
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打