『都市』第70号・2019年8月
手の甲に心覚えや新入生
雁風呂や帽子おさへて急ぎ足
啄木忌震へる手にて書く日記
愛鳥週間啄木の歌集手に
閉店を知らず訪ふ夏の霜
手の甲に心覚えや新入生
雁風呂や帽子おさへて急ぎ足
啄木忌震へる手にて書く日記
愛鳥週間啄木の歌集手に
閉店を知らず訪ふ夏の霜
振り向かずとも富士のある冬の空
犬二匹耳そばだてる初音かな
雲間より陽の輝きて大試験
波を見て逃ぐる子のゐる磯開き
初蝶に大気揺れゐて日も揺るる
学び舎に法の意味知る隙間風
冬の夜寝てゐる顔は嘘つかず
お揃ひのセーター着込み寝台車
起き上がる覚悟もなくて初寝覚
両手持て成人式の握り飯
逝きし子も色なき風に吹かれけり
肩薄くなりたる母と秋刀魚食ぶ
鰯雲もう一度息深く吸ふ
実のある話とは何ぞ太閤忌
どんぐりの命を拒む固さかな
新しき傘差し兼ねる時雨かな
辞書をもて「放屁」引く子ら夏休み
秋暑し剃り残したる髭一本
蝉時雨お蔭さまにて難聴に
やや力入れ歯を磨く菊日和
三日月を見上げつ薄荷糖しやぶる
教室の机の上の白躑躅
白昼の蛇騒動を遠巻きに
人に遭ひ放す妻の手花火の夜
夏至の日の自転車をこぐどこまでも
ゆで卵塩多く付け夏来る
春の宵求めた辞書をなでさする
幼子の小さき手合はすイースター
霊柩車遠足のバス追ひ抜けり
水切りの石投げ分けて夏に入る
柔道着乾かぬうちの春驟雨
牛の声と船の汽笛と長閑なり
消防の訓練中や春一番
階段を一段飛ばし春に入る
雛飾り人の気配を感じをり
パソコンがつながるまでの花曇
冬めくや釣堀へ行く二人連れ
肩に舞ふ落葉や眼鏡くもらせて
冬に入る雨に大股歩きかな
決断を一日延ばし冬の暮
寒紅の唇閉ぢて襷掛け
自選五句
たんぽぽや終に子どもは授からず
寒星やメニューに見入る老夫婦
片想ひ独活の天ぷら噛みしめて
完璧な蟹股歩きやませ吹く
漱石忌卵落としてカリー食ぶ
「俳句と私」
ressentimentというフランス語を、私は日本語として覚えました。
このルサンチマンを、広辞苑(第二版補訂版)にあたると、「怨恨・憎悪・嫉妬などの感情が反復され内攻して心に積っている状態」と記されています。私が俳句を詠むのは、まさにルサンチマンによるのです。
「怨恨・憎悪・嫉妬などの感情が反復され内攻して心に積って」くると、それらを吐露しないと苦しくなります。そんなとき、「こん畜生」とおもいながら俳句を詠むと、心が平らかになってくるのです。花鳥諷詠は、あらばこそ、です。
心に積った憂さを晴らすために、俳句を詠む、これが「俳句と私」とのただならぬ関係です。
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打