『都市』第38号・2014年4月
凩や手に大冊の重たき日
五十路なる歯間の葱の取れぬ日の
秒針の音が気になる雪催
焼鳥を妻と分け合ふ九本目
短日や本の整理は終はりなく
凩や手に大冊の重たき日
五十路なる歯間の葱の取れぬ日の
秒針の音が気になる雪催
焼鳥を妻と分け合ふ九本目
短日や本の整理は終はりなく
梅雨晴間猫は欠伸を思ひ切り
向日葵は六等身を恥じりをり
蜥蜴にも「さん」とつけやる園児かな
サングラス遺品整理の手の止まる(★)
飛魚のげに楽しげに飛びにけり
記念撮影流星を待ち並びをり(★)
包丁の切り口見事秋茄子
献血の空いた手に持つ鬼胡桃
椅子固き大教室や春愁(★)
去年になき春の夕べとなりにけり(★)
小満や和服の似合ふ異国人
紫陽花に魅せられ落とす文庫本
憎つくき白髪探しては抜く梅雨籠
若いのに扇子が似合ふ准教授
蝿叩き売る店がある大通り
検診結果未だ開かず梅雨曇
それぞれの春それぞれに生きてゐる
スカイツリー見上げ口開く相撲取
心持ち大きく記す「春」の文字(★)
醜男の恋人でも楽しい花見
真つ更の教科書撫でる新入生
初蝶がふはとボランティアの肩に
卒業式胸のコサージュふるはせて(★)
春疾風ふと人生を振り返る
温め酒宴の果てはみな胡座
老夫婦ビードロで汲む温め酒
新走り誰も饒舌同窓会
腰痛を友としてこの年を越す(★)
人生の胸突き八丁温め酒
思はず声出して応援早明ラグビー
悲喜こもごもまた巡り来る年用意
敵討つやうに踏みしめ霜柱
関取に似る美女がゐる夏芝居(★)
梅干しを頬張つてさて延長戦
妻と手をつなぎ秋立つ今朝の道(★)
喪帰りの冷麦すすり皆無口
赤き灯のことに揺れをり盆踊り
長き夜や動悸してふと死を思ふ
秋暑し煎餅かじりまたかじる
弁当は妻の手作り秋うらら
犬だつて笑顔で走る桜道(★)
筍飯いつしか父に似る仕種
蓋の海苔まづはこそげて頬張りぬ
ぬひぐるみを中に川の字春の宵
須臾日々の地獄忘るる花吹雪
青嵐衝いて古本売りに行く
入梅や辞書引きてゐて語を忘る(★)
午後からの会議の行方かたつむり
冬空や手術受け死を間近にす(★)
早仕舞ひするかもしれぬ初時雨
忘れ物を老いのせゐにし隙間風
小正月いつしか向きになる掃除
努力せずとも鼻高くなる真冬
学ぶときをいとほしんで冬ごもり(★)
卒業生笑ふがごとくに泣いてゐる
駅弁を我が家で食うて春寒し
菊の花噛むでも飲み込むでもなく
捨て出すととめどなくなり夜半の秋
ふと目覚め月を確かめまた寝入る
木の実拾ふ何の目的なけれども
運針の音がきこえるそぞろ寒
傘の骨旋風(つむじ)に折られ冬に入る
変はらないのに何かが違ふ冬至
わが俳句の師匠、須川洋子先生は、加藤楸邨の指導のもと、「寒雷」同人、塚本邦雄創刊歌誌「玲瓏」同人、現代俳句協会会員でした。
個人的には、立教大学文学部の先輩にあたり、2011年10月17日に永眠されました。
「真打に昇進した平成八年、自らへの封印をいくつかを解きましたが、その一つに作句がありました。
さて、師匠はどうしようかと考えたとき、偶々手にとった立教大学校友会報に、後に師匠となる人の名を見つけ、立教レディス句会に参加させて頂くこととなったのでした。
須川先生の師匠、加藤楸邨が「人間探求派」の一角を占めていたことを知り、須川先生の特長である向日性の所以を理解したのです。」
上記の文章は、須川洋子主宰の俳句誌『季刊芙蓉』第91号に、200字以内の規定により寄稿したものを転載したものです。
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打