【箇所】一橋大学国際・公共政策大学院 公共法政プログラム
【科目】公共法政ワークショップⅡ
【開講学期】2011年度 冬学期[2単位]
【担当】高橋 滋 教授〈一橋大学大学院 法学研究科:行政法〉
研究論文企画リポート
【題目】地方公共団体による中核市、特例市の選択(申出)に関する一考察−町田市の場合を射程にいれて
【構成】(案)
はじめに
1、序論
2、指定都市
3、中核市
4、特例市
5、保健所設置市
6、町田市の場合
6−1、(資料)特例市と中核市に移譲される事務の違いと地方分権一括法により2012年4月以降に町田市へ事務が移譲されるもの
7、町田市の中核市に対する対応について
7-1、町田市の中核市に対する対応への資料要求
7-2、町田市の中核市に対する対応への資料要求への回答
8、町田市の隣市八王子市における中核市への対応
8-1、八王子市における中核市移行に伴う税源移譲に関する中間報告書
8-2、八王子市における中核市移行に伴う税源移譲に関する中間報告書に関する私見
今後の研究課題
【参考文献】
はじめに
さる2011(平成23)年10月18日の閣議において、熊本県熊本市を指定都市とする政令の改正が行われた。このことによって、全国で20番目の指定都市が2012(平成24年)年4月1日に誕生することとなったのである。
あわせて同日の閣議において、大阪府豊中市を中核市とする政令の改正も行われた。こうして、現在41ある中核市のうち熊本市が指定都市となり離脱するものの、豊中市が来年中核市となることで数的には41市の現状を維持する。
指定都市になるための人口要件は、地方自治法によれば「人口五十万以上の市」 であるものの、「人口50万人であることは、指定を受ける必要条件であるが、必要十分条件ではな」 く、実際は人口50万人を要件として指定都市になった例はない。指定都市は「政令で指定する」 こととなっており、それによれば、「5大市の指定当時の人口を目安に2001年に市町村合併支援本部 による、合併を促進するための特例によって緩和され 、70万人の人口でも認められることとなった。そこで、前述の熊本市は指定都市となるべく、2008年から2010年にかけて周辺3町と合併して人口要件を満たしたのである 。このことによって、全国で70万人以上の人口を擁する市はすべて指定都市となることとなった。
しかし、指定都市と同様に市制度の特例とされる、「第2政令市と呼ばれることもある」 中核市の場合、指定都市とは異なり、その人口要件である30万人を満たしていてもなお、中核市になろうとしない市が少なからずある 。
特例市は2011年4月1日現在40市あるが、これも中核市と同じように、人口要件である20万人を満たしていながらもそれになろうとしない市がある 。
このように、指定都市は人口要件を満たした市がすべてそれに指定されるのに比して、中核市、特例市は、こと人口要件を満たしていながらもなお、それになろうとしない市があることにより、両者は截然と区別されるべきもののようにかんがえられる。
また、筆者は、人口要件を満たしていながらも中核市になることを前提としない市のひとつである、脚注8にある町田市の議会議員であるが、このように人口要件を満たしていながらもなお中核市になることを前提としない市には共通する理由があるのか、あるいはないのかに興味、関心を抱いているものである。
それらのことが相俟って、指定都市と中核市、特例市に関しての考察をめぐらせることに本論文の主意はある。
1、序論
わが国の「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」 法人 である。
これは、「1970年代いらいの社会科学における“地域主義”が、自立した経済と政治行政を支える人文地理的単位である「地域」の役割を重んじてきたことの反映が公認されている」 文脈から招来された規定であろうが、前世紀末葉から、わが国では地方自治を重視する声が以前とくらべた場合、格段に高くなったことは公知のことである。
その具体的な動きの一つの例として、1995年に村山富市連立政権によって提出された「地方分権推進法」案が、制定をみるにいたったことが挙げられる(5月公布、7月施行)。
同法では、法律として国の役割をはじめて限定的に規定し、「地方公共団体への権限の委譲」 と「国の機関として行う事務」 の「地方自治の確立を図る観点からの整理及び合理化その他所要の措置」 、地方税財源の充実確保、自治体行財政の透明性と住民参加などの分権体制整備を定めていた。
わが国における、地方分権にいたる志向の萌芽は、1949年のシャウプ勧告とその翌年になされた神戸勧告(第2次は1951年に出された)がその要因とみることができ、そこでは「市町村優先の原則」が採られていた。これは、「市町村優先の原則を踏まえ、都道府県は市町村を補完し、国は都道府県を補完する役割を担う」 ことであり、このことは、射程を大きくとった場合、教皇レオ13世により1891年に出された回勅(カトリック教会の社会教説)レールム・ノヴァルムに端を発する「補完性の原理」 のあらわれとみることができ、これを団体自治、住民自治と並ぶ「地方自治の本旨」の第3の要素として位置づける見解もある 。
なお、その際、「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」 とされている自治体なのである。
さて、筆者が居住する東京都町田市は、普通地方公共団体である。その「普通地方公共団体は、都道府県及び市町村と」 されているが、町田市のような地方公共団体は、「基礎的な地方公共団体」 とされ、「地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する」 団体である。
なお、わが国の大都市については、都道府県と市町村という二層制の貫徹による二重行政の弊害を排除する観点から、政令指定都市制度が確立されたところであるが、それ以外の市については地方自治制度上、基本的に市町村一律主義が採用されてきた 。
その大都市を本田弘は、「大都市とは決して人口規模の大きい都市をいうのではなく、大都市の果たす機能が他の一般都市とは比較にならぬ程の巨大さと複雑さをもつ都市を指す」 と述べているが、たしかに、都市を人口規模だけで規定することには、ある種の危うさが付き纏うこととなろう。
しかしながら、政令指定都市を除いても、わが国の市町村をみた場合、「市町村の規模、能力、態様等において大きな格差がみられるようになり、また、地方分権推進の観点に立って、基礎的な地方公共団体に対する権限委譲を積極的に進めるためには、市町村の規模能力等に応じた事務配分を進めていくことが、基礎的な行政に責任を持つ市町村の機能を一層充実させていく上で望ましいとの考え方が強調されるようになってきた。(改行)このような流れを受け、一定の規模能力等を有する団体に対して、当該団体が処理することが適当でありかつ処理することが可能な事務権限等について一括して特例措置を講ずる方式として、都市特例としての中核市制度、特例市制度が地方自治法に設けられている」 のである。
この特例制度は、「法令上都道府県が行うこととされている事務の一部をそれぞれの市が処理することのできることを規定している」 制度である。
これに関して、先ほど挙げた本田の意見によれば、「大都市に生ずる諸々の問題を合理的に解決するための制度が必要なのである」 から、それに対応するために、中核市制度、特例市制度が新たにもうけられたというべきであろう。
この制度の根柢をになう考え方の代表的なものとして、次のものが挙げられる。「一定の地域には、歴史と自然条件に刻印された社会、経済、政治、文化のそれなりに独自な営みがある。この地域的個性こそ、中央(国)からの統治に還元しつくせない自主的な決定権をもつ『地方政府』の存在理由である」 。
なるほど、「地方政府」とは、2009年12月に地方分権改革推進委員会から出された第2次勧告にも、「自治行政権、自治立法権、自治財政権を有する「完全自治体」としての「地方政府」の確立」がうたわれているところであるため、小稿においても地方公共団体を地方政府とみる視角を射程にいれた議論を構築することを目指したい。
2、指定都市
ここで、中核市、特例市についてみる前に、わが国で初の都市制度となった、指定都市について概観し、どのような経緯で、指定都市制度が創設されたのかを確認したい。
わが国では、明治以来の近代化に伴い、東京、大阪をはじめとする大都市が形成され、発展をしてきた。「大正時代になると、急速な工業化に伴い、ますます大都市への産業・人口の集中が進み、いわゆる6大都市(東京、大阪、京都、名古屋、神戸、横浜)が形成された。これら6大都市は、他の都市とは隔絶した存在であったため、府県と市との二重行政の弊害が強く意識されるようになっていった。当時の大正デモクラシーの機運の高まりとも呼応して、6大都市では市を府県から独立させることを内容とする特別市運動が盛り上がりをみせた。この結果、1922年には「六大都市行政監督ニ関スル法律」が制定され、6大都市の事務処理に関しては、勅命の定めるところにより、知事の許可・認可が不要となった。」
しかし、昭和10年代以降、戦時色が濃厚となり、国家体制の強化に伴い特別市運動は退潮を余儀なくされる。とくに昭和18年には、東京市が、東京都制に移行したことにより、特別市運動は「失速状態に陥った」 。
東京が都になったことで、5大市となったものの、戦後になり、当該市は特別市運動を再開させ、昭和22年に施行された地方自治法には、特別市の規定が置かれることとなった。それは、「特別市を都道府県の区域から独立させ、府県と市の権限をあわせもつ特別地方公共団体とする内容のものであった。そして、当時の5大市の実態を勘案して、人口50万人以上の市を特別市として法律で指定することになっていた」 。
また、これに対して、5大市を含む府県からは猛烈なる反対運動が起こったため、結局、特別市を指定する法律は施行されないまま推移し、結局、1956年の地方自治法の改正により特別市制度は廃止され、その代わりに政令指定都市 の制度が創設されることとなった。
指定都市の指定要件としては、「人口五十万以上の市」を「政令で指定する」としているが、これまでの運用では、概ね人口100万人が基準とされていた 。
しかし、広島市や福岡市が指定されたときは、人口約85万3000であった。そのため、85万が最低ラインと考えられてきたが、千葉市が指定を受けたときの人口は約83万5000で85万より少なかった。「さらに、平成の大合併に際しては、市町村合併を推進するという国の政策目的から、合併後70万人に基準が切り下げられた。」 それをうけて、人口約70万人の静岡市が、2005年に指定都市となった。
指定都市は、社会福祉、保健衛生、都市計画等に係る事務のうち、「都道府県が法律又はこれに基づく政令の定めるところにより処理することとされているものの全部又は一部で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができる」市である。
また、「指定都市がその事務を処理するに当たつて、法律又はこれに基づく政令の定めるところにより都道府県知事若しくは都道府県の委員会の許可、認可、承認その他これらに類する処分を要し、又はその事務の処理について都道府県知事若しくは都道府県の委員会の改善、停止、制限、禁止その他これらに類する指示その他の命令を受けるものとされている事項で政令で定めるものについては、政令の定めるところにより、これらの許可、認可等の処分を要せず、若しくはこれらの指示その他の命令に関する法令の規定を適用せず、又は都道府県知事若しくは都道府県の委員会の許可、認可等の処分若しくは指示その他の命令に代えて、各大臣の許可、認可等の処分を要するものとし、若しくは各大臣の指示その他の命令を受けるものとする」 との特例が認められていた。
また、指定都市は、「国庫補助金等の交付に関する協議なども、都道府県をとおさず直接国と交渉する。そのため、指定都市は、都道府県と同格などといわれる。」
このような指定都市制度であるが、それは、「かつての特別市とは似て非なるものであり、5大市と5大府県の妥協の産物であったかもしれないが、制度創設以来、半世紀を経過し、それなりに安定した制度になってきている」 とされるものである。
そして、2011年(平成23年)現在指定都市は、19市を数えるまでに増えたことと、それにくわえて熊本市も指定都市への移行が閣議により決定され、2012年には20市を数えるまでに伸張することからも、「現行の指定都市制度が都道府県、指定都市いずれの側にとっても、完全に満足はできないとしても、それなりに使い勝手のよい制度になっているといえよう。」
また、指定都市については、地方自治法に関係市からの指定の申出の規定が置かれていない。
3、中核市
「中核市制度は、社会的実態としての諸機能、規模能力等が比較的大きな都市について、その事務権限を強化し、行政はできるだけ住民の身近で遂行するという地方自治の理念を実現するために創設された制度である。」 これは、1993年4月に地方制度調査会が行った「広域連合及び中核市に関する答申」を受けて、1994年の地方自治法改正で導入され、1995年に施行された地方自治法252条の22第1項によって規定されたものである。
そこで、同法252条の22第1項をみると、次のように記されている。「政令で指定する人口三十万以上の市(以下「中核市」という。)は、第二百五十二条の十九第一項の規定により指定都市が処理することができる事務のうち、都道府県がその区域にわたり一体的に処理することが中核市が処理することに比して効率的な事務その他の中核市において処理することが適当でない事務以外の事務で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができる。」
このように、中核市とは、「指定都市が処理することができる事務のうち、都道府県がその区域にわたり一体的に処理す」べきとされた事務以外のものを処理することができる市なのである。
なお、中核市に関して、指定都市同様に関与の特例の規定は置かれたものの(252条の22第2項)、これを具体化するための政令の規定は少ない。「したがって、指定都市と異なり、多くの事務で、中核市は、都道府県(知事)の関与を受ける扱いとされている。」
すると、一般の市よりも、中核市のほうが、処理すべき案件が増えることが、想定されるところとなる。しかし、それは当然ながら、指定都市よりも少ないものとなるであろう。
その際、「自治体の規模に自治体の能力が比例するかどうかという疑問」 を、筆者もまたもつのである。たしかに、大数の法則からも、多くの住民で構成された地方公共団体は、少ない住民で構成された地方公共団体よりも、その自治体の能力は上回るのかもしれない。しかし、それだからといって、それがつねに保証されるものでもないであろう。
これを櫻井敬子教授は、「地方の実力」問題として、地方公共団体の条例制定能力を例に、「これを「受け皿論」といい、地方分権改革を進めようとする場合につねに問題意識としてのぼりながら、それを言い出すと改革を進められない現実があるため、ずっと封印されてきた問題」 として言及している。
そこにうかがわれるのは、「1970年代いらいの社会科学における“地域主義”が、自律した経済と政治行政を支える人文地理的単位である「地域」の役割を重んじてきたことの反映が公認されている」 ことである。
ただし、中核市という制度は、指定都市にくらべると、都道府県と連携協力し、事務を実施することが期待されているためか、あるいは、「受け皿論」の関係からか、「中核市の要件に該当する市であっても、中核市になるための申出をしないものも多い」 のが現実であり、申出制をとっていない指定都市とは異なっているところである。
平成23年4月1日現在、中核市は41市 を数えるが、そのなかにたとえば東京都では中核市の規定にある30万人以上の人口を有する八王子市と町田市は、人口要件上該当するものの、いずれも中核市ではない。
4、特例市
特例市とは、政令で指定する人口20万人以上の市であって、中核市が処理することができる事務のうち一定の事務を、政令で定めるところにより処理することができる市である(地方自治法252条の26の3第1項)。これは、地方分権一括法に基づく1999年改正地方自治法によって設けられた制度で、2000年4月1日に施行された地方自治法252条の26の3第1項を根拠とする、比較的最近のものであり、「地方分権に伴う事務権限移譲の受け皿として、新たに設けられた」 ものである。
なお、特例市に関し、指定都市や中核市同様関与の特例の規定は置かれたものの(地方自治法252条の26の3第2項 )、これを具体化するための政令の規定は少ない。したがって、中核市同様、多くの事務で、特例市は、都道府県(知事)の関与を受ける扱いとされる。国庫補助金等の交付に関する協議なども同様であることから、特例市は、中核市同様に、都道府県と連携協力し、事務を実施することが期待されている市といえる。
このように制度として「多少魅力に欠け、特例市の要件に該当する市であっても、特例市になるための申出をしないものも多いのは、中核市と同様である」 こととなっている。
平成23年4月1日現在、特例市は40市 を数えるが、そのなかにたとえば東京都では特例市の規定にある20万人以上の人口を有する八王子市と町田市、府中市、調布市は、人口要件上該当するものの、いずれも特例市ではない。
こうして、中核市と同様に特例市も、関係市からの指定の申出によって、指定される 。
5、保健所設置市
以上みてきたように地方自治法に基づく指定都市、中核市、特例市以外にも、個別法に基づく大都市特例制度がある。その代表的なものとして、保健所設置市があげられる。
地域保健法5条1項では、保健所は、都道府県、指定都市、中核市その他の政令で定める市または特別区が設置するものとしている 。そして、「政令で定める市」として、地域保健所施行令1条3項で、2011年4月1日現在、8つの市 を定めている。これらのなかには、小樽市、八王子市、町田市、藤沢市、大牟田市のように、中核市のみならず特例市でもない市が含まれている。特に、八王子市と町田市、藤沢市は、人口30万人以上を擁し、中核市の要件をも満たしている。
「こうしてみると、(中略)「都道府県事務の市町村への移譲」措置と相まって、市(町村)では、法令上最低限実施しなければならない事務のほかは、実施する事務を選択しているともいえそうである。」
6、町田市の場合
筆者が住む町田市の人口は、425,238人である 。
したがって、「政令で指定する人口五十万以上の市(以下「指定都市」という。)」には、該当する市ではないが、政令で指定する人口三十万以上の市である、「中核市」ないしは、政令で指定する人口二十万以上の市である、「特例市」には、人口要件上該当する地方公共団体である。
平成7年4月1日に制度が施行された中核市は、平成23年4月1日現在旭川市をはじめ41市あり 、平成12年4月1日に制度が施行された特例市は、平成23年4月1日現在八戸市をはじめ40市ある 。
しかし、町田市は、現在(2012年2月)中核市でも特例市でもない一般市である。
こうして、町田市は現在のところ、中核市でも特例市でもないが、「住民の福祉の増進を図ることを基本」とした場合、「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として」 中核市あるいは特例市となること、または中核市あるいは特例市とならないことが、町田市民の福祉の増進に資する視角からみた場合にどのような影響を及ぼすのかを考察することが、来年度提出する修士論文の目的である。
6−1、(資料)特例市と中核市に移譲される事務の違いと地方分権一括法により2012年4月以降に町田市へ事務が移譲されるもの
特例市と中核市に移譲される事務の違い
事務 特例市に移譲される事務 中核市との違い(中核市に認められ、特例市に認められない事務)
民生行政に関する事務
※特例市に移譲される事務はありません。 ※特例市に該当するものはない。
○地方社会福祉審議会の設置・運営(社会福祉法関係)
○社会福祉施設(保育園・特別養護老人ホームなど)の設立認可・指導監査
○民生委員の定数決定、指導訓練等(民生委員法関係)
○身体障害者手帳の交付(身体障害者福祉法関係)
●母子相談員の設置・寡婦福祉資金の貸付け(母子及び寡婦福祉法)
保健衛生行政に関する事務
※特例市に移譲される事務はありません。
※中核市は、自ら保健所を設置。政令市と同様の権限が移譲されます。 ※特例市に該当するものはない。
●保健所の設置を通じて、次の事務を行う
・伝染病・結核・エイズ等の予防のための措置(伝染病予防法関係)
・飲食店、興行場、旅館、公衆浴場の営業許可(食品衛生法関係)
・墓地、納骨堂又は火葬場の経営の許可(墓地、埋葬等に関する法律関係)
・診療所、助産所の開設許可(医療法関係)
・動物愛護や管理に関する事務(動物愛護法関係)
・浄化槽の保守点検業の登録(浄化槽法関係)
都市計画に関する事務
※特例市には、都市景観の保全を除き、中核市と同様の権限が移譲されます。 ◎市街化区域又は市街化調整区域内の開発行為の許可(都市計画法関係)
◎都市計画施設、市街地開発事業、市街地再開発事業の区域内における建築の許可
◎土地区画整理組合の設立認可、土地区画整理事業区域内の建築の許可
◎住宅地区改良事業内の建築の許可
◎高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築及び維持保全計画の認定(建築基準法関係) 左記の特例市の事務に加えて、
○屋外広告物の条例による設置の制限(景観法関係)
環境保全行政に関する事務
※特例市には、中核市の権限の一部が移譲されます。 ◎騒音、悪臭、振動の規制地域・規制基準の設定(悪臭防止法・振動規制法・騒音規制法関係)
○水質の保全(特定施設の設置の届出等の受理、監視等)(水質汚濁防止法関係) 左記の特例市の事務に加えて、
・産業廃棄物処理施設の許可・監督(産業廃棄物処理法関係)
・ばい煙発生施設、粉じん発生施設の設置の届け出
地方教育行政に関する事務
※特例市に移譲される事務はない。
※中核市は、県費負担教職員に研修を実施する権限 ※特例市に該当するものはない。 ○県費負担教職員の研修
中核市は、県費負担教職員の研修権限がある。
○重要文化財の現状変更の許可
行政組織上の特例・その他 ○計量法に基づく勧告・定期検査(計量法関係)
※関与の特例については、該当なし。
計量法事務は中核市にも該当。中核市として移譲された事務については、通常都道府県知事の監督が必要とされる場合でも、その監督を受ける必要がなく、直接主任の大臣の監督となる。
(注意)
表に記載された事務がすべてのものではない。
また、●は、既に町田市において事務をおこなっているもの
◎は、分権一括法により、2012年4月以降に町田市へ事務移譲されるものを意味している。
7、町田市の中核市に対する対応について
7-1、町田市の中核市に対する対応への資料要求
表題7、に関して、町田市において、それを所管とすることが想定される政策経営部 及び財務部に、資料要求の体裁により筆者が問い合わせた。それを調査事項とともに報告すると、次のとおりであった。
「調査事項」町田市の中核市に対する対応について
「調査内容」町田市が中核市になった場合、予算編成上、顕著に変化があると想定される点について
7-2、町田市の中核市に対する対応への資料要求への回答
「回答」そもそも町田市は中核市に移行するという想定がないため、お求めの資料はない。
以上が、回答であった。なるほど、たしかに、町田市は、中核市になるために必要とされる人口数30万人に達して以後、現在にいたるまで、一度たりとも、中核市になることを表明したことはない。
したがって、上記のように、「中核市に移行するという想定」は行っていないことから、請求した資料はない、という回答は想定されたものの、事実においてもそのとおりの結果となった。
ただし、中核市になることは、それに伴って、事務権限が委譲されることにより、6−1、(資料)で挙げたような事務を新たに処理することなる。そうなれば、当然のことながら、関連する予算措置が生じてくる。ただし、町田市においては、保健所政令市に移行済みのため、保健衛生に関する事務や環境保全行政に関する事務の一部については、特に変化は想定されない。
8、町田市の隣市八王子市における中核市への対応
同じ東京都内における例として、町田市の隣に位置する八王子市は、2012年1月1日現在人口が555,630人あることから、中核市になるための人口要件は、満たしている。
また、同市は、以前に中核市移行を目指していたものの、平成12年に当時の財政状況から当面の間移行を凍結している 。
ただし、2012年1月22日に執行された八王子市長選挙において、候補者のうち一人は、中核市への移行を「市民サービスが迅速化できる」 として、選挙政策の柱のひとつとしていた。したがって、1月23日に開票された同市長選挙の結果によって、同候補が当選したことにより、八王子市は中核市への移行を今後検討することも大いにありうる 。
8-1、八王子市における中核市移行に伴う税源移譲に関する中間報告書
八王子市は、中核市に移行する際の税源移譲に関して、「八王子市における『より良い事務権限の移譲』とは」として、「平成22年度 八王子市都市政策研究所 中間報告」において、財源の移譲に関して下記のような記述がなされている。
「(2)税源移譲とその額
事務権限の移譲に伴い、本市の事務量と金銭的なコストは当然増加することになる。その中で「本市の裁量権の拡大」という移譲の意義を担保するためには、移譲される事務権限にふさわしい税源が本市に移譲されてしかるべきである。しかしながら、これまで東京都から事務処理特例制度に基づいて事務権限が移譲される際には、多くの場合、事務処理特例交付金等による財源手当がなされてきた。だがそれでは、「財源手当」という方法を通じて、東京都が本市の事業をコントロールすることになり、「地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課題に取り組むことができるようにする」という地方分権の意義を達成することはできない。本来ならば、市民サービスの対価として徴収されている税を移譲事務の原資に充てるのが適当であり、本市の側から東京都に向かってそのように主張することが重要である。
東京都も平成16 年に公表した『地方分権改革に関する東京都の基本的見解』の中で、「税源移譲にあたっては、地方自治体の自立に必要な財源を確保することが基本である」、「国と地方の役割分担を見直したうえで、地方自治体の事務と権限に見合う税源が配分されるべきである」と繰り返し強調しているが、これは「国―都道府県」の関係だけでなく、「都道府県―市町村」の間でも当然に通用する考え方である。
また、移譲を求める税源の額に関しても、同様の事務権限の移譲を受けた他市の例等を参考としつつ、極端な過不足がないように精査しなければならない。これまでも移譲される事務権限とそれに充てるための税財源のミスマッチが指摘されてきたが、今回の事務権限の移譲が、それを拡大させるようなものであってはならない。」
「(2)税源移譲の主張
事務権限の移譲に際しては、その事務量に見合った額の税源が移譲されるよう求めていかなければならない。額を算出する際には、必要人員や必要機材、その他の経費等をこれまでの事務執行の状況や他自治体の事例を参考にしながら精査し、東京都の見方と異なる点があれば、本市も自らの意見を主張しなければならない。また、「どのように財源補完を受けるのか」を模索するのではなく、税源移譲を主張する点も重要である。補助・交付金や地方交付税といった依存財源ではなく、市民の意思がより的確に反映された行政サービスを提供するための自主財源を確保することこそが求められる。」
8-2、八王子市における中核市移行に伴う税源移譲に関する中間報告書に関する私見
上記報告書にあるように、「移譲される事務権限にふさわしい税源が本市に移譲されてしかるべき」とは、補完性の原則に鑑みても、それは説得力をもつものと筆者は考える。
今後の研究課題
1、中核市の人口要件を満たしていながら、指定の申出を行わない市と指定の申出を行う市との区別できる基準をさがすこと。たとえば、一般会計予算のある一定の額が、その基準となっている可能性がある。
2、1、と同様に、特例市の場合も、その人口要件を満たしていながら、指定の申出を行わない市があり、指定の申出を行う市もある。それを分かつ基準があるのかどうかを明らかにさせたい。
3、中核市、特例市ともに、その申出を行う市には、地域的な偏向があるのかを明らかにさせたい。
4、中核市、特例市ともに、その申出を行う市には、議会の議決事項としてそれがあったのか、それともなかったのかを明らかにさせたい。
5、中核市、特例市の申出には、都道府県の意向が反映されているのかどうかを明らかにさせたい。
【参考文献】(順不同)
兼子仁『新 地方自治法』(岩波書店、1999年)
兼子仁『[改訂版]自治体行政法入門』(北樹出版、2008年)
大森彌『自治体行政学入門』(良書普及会、1987年)
松本英昭『新地方自治制度 詳解』(ぎょうせい、2000年)
宇賀克也=大橋洋一=高橋滋編『対話で学ぶ行政法』(有斐閣、2003年)
宇賀克也『地方自治法概説』〔第4版〕(有斐閣、2011年)
佐々木信夫『現代地方自治』(学陽書房、2009年)
本田弘『大都市制度論−地方分権と政令指定都市』(北樹出版、1995年)
伊藤祐一郎編著『地方自治 新時代の地方行政システム』(福田毅執筆「多様かつ機能的な組織及びその運営のあり方」)(ぎょうせい、平成14年)
山口道昭編著『[入門]地方自治』(学陽書房、2009年)
橋本行史編著『現代地方自治論』(明石照久執筆「種類と規模」)(ミネルヴァ書房、2010年)
北村喜宣=山口道昭=出石稔=磯崎初仁編『自治体政策法務』−地域特性に適合した法環境の創造(大石貴司執筆「都道府県と市町村の関係の制度と課題」−権限移譲を中心に)(有斐閣、2011年)
櫻井敬子「地方分権という美名の陰で」『WEDGE』2010年1月号30-33頁。