町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

一橋大学 国際・公共政策大学院「社会安全政策論」期末リポート大学での活動

2012.02.11(土)

【箇所】一橋大学 国際・公共政策大学院 公共法政プログラム
【科目】社会安全政策論
【開講学期】2011年度 冬学期[2単位]
【担当】安田 貴彦 客員教授〈警察政策研究センター所長〉
【課題】『防犯環境設計』(街頭犯罪、侵入犯罪等の抑止)
【指定分量】本文で5,000字から7,000字程度

【構成】
はじめに
1、環境設計による犯罪予防の定義
2-1、CPTEDとはどんなものか
2-2、CPTEDの概念
2-3、CPTEDの戦略
3、「防犯環境設計」で守りを固める
4、安全・安心のまちづくり
5、犯罪発生のための必須要因と犯罪抑制のための非営利組織の援助
おわりに

 なお、注の部分は省略した。

はじめに
 「何の工夫も要らず安全な生活が満喫できる、という時代が終りを告げようとしている。日本は世界一安全、という国際的評価にも明らかに黄信号が点滅し始めた」 と記されたのは、1984年のことであるから、もはや28年も前のことになる。

 このように、日本においても安全が所与のものではなく、その構築が課題とされる言説があらわれたことを踏まえ、安全の構築に資すると考えられる、防犯環境設計とはどのようなもので、それをどのように利用すれば有効なものとして活用できるのかを考えるのが当リポートの主意である。

 なぜならば、「犯罪先進国アメリカにおいて、現在、最も新しい「犯罪防止手法」として、「環境設計による犯罪防止手法」が大いに注目を集め、盛んに実施されつつある」 からである。

1、環境設計による犯罪予防の定義
 犯罪を1書では、「限られた空間の中で、ある行為をしようとする場合に、その社会が必要と認めている手続きや制限を無視した逸脱行動」 と定めている。

 その犯罪を減少させるための学問の一分野が環境犯罪学であり、その始祖とされるのが、アメリカの犯罪学者、ジェフェリー博士(C.Ray Jeffery)である 。博士は、「犯罪の脅威から守られた安全な街づくり」 に資する、咸鏡設計 による犯罪予防を提唱した 。それは、“Crime Prevention Through Environmental Design”(1971年)という同氏による著作タイトルを以てなされたものであり、それぞれの頭文字をとってCPTED(セプテッド)という略称でよばれるものである。

 CPTEDは、次のようにパラフレーズすることができる。「人間によってつくられる環境の適切なデザインと効果的な使用によって、犯罪に対する不安感と犯罪の発生の減少、そして生活の質の向上を導くことができるという考えに基づいている」 。

 なお、「ジェフェリーが使用する「犯罪予防」という概念は、(中略)犯意を起こす前にあきらめさせることを主眼とする。」 ものであり、その基本理念は、「パターナリスティック(家父長制温情主義的)な社会的責任」である。

 ジェフェリーが使用する「犯罪予防(Crime Prevention)という概念は、従って、犯意を起こす前にあきらめさせることを主眼とする」 ものである。

 それに先立ち、「犯罪学者がシカゴ学派と呼ぶ、より実証的で因果関係を重視するパラダイムがスタートするのは1920年代終り頃で、シカゴ大学のショウとマッケイ(Show&Mckay,1945)が都市化と犯罪多発エリアの研究を発表した1940年代半ばには、犯罪原因の一つが社会環境であることは認識され、研究されていた。」 

 「ジェフェリーはこうした人的な社会環境にプラスして、ハード面での環境を考え、総合的に犯罪を予防すべきだと考えた。それが「CPTED」の真に意味するところだったのである」 。

2-1、CPTEDとはどんなものか
 National Crime Prevention Institute(NCPI)(全国防犯研究所)によって使われているCPTEDの定義は、「つくられた環境の適切な設計と効果的な利用は、犯罪に対する不安感と犯罪の発生の減少につながり、生活の質の改善につながり得る」ものとされている 。

 ここで注目されるのは、CPTEDを導入することによって、住宅地でもビジネス地区でも、利潤が増進され、損失が減少し、「副産物は犯罪予防である」 ということである。

 ただ、「副産物は犯罪予防である」との記述に関しては、筆者にも少し言い過ぎのきらいがあるように見受けられた。「犯罪がその結果、住宅地でもビジネス地区でも、副産物として予防される」とでも記すのが適当であるような気がしたものである。

 このCPTEDの定義で重要なのは、次の指摘であろう。「人的そして物理的な資源の管理を良くすればするほど、利潤も大きく損失が少ないということを語っている。」 

 いずれにしろ、ジェフェリーによってこのような記述がなされたのは、「犯罪者に対し応報的に厳罰で対処するより、そもそも犯罪に走る前にその芽を摘み取るべきだと考えるようになった」 ジェフェリー自身のパターナリスティックな心性によるものであることが指摘できよう。

2-2、CPTEDの概念
 「CPTEDの概念は、少なくとも本書で取り上げるものは、大部分が自明の事柄ばかりである」 という。そして、次の指摘がなされる。

 「CPTEDプログラムの概念は、物理的環境を操作することによって、犯罪と犯罪に対する不安感を減らすための行動的効果を作り出せるとするものである。これらの行動的効果は、犯罪行動を助けるような傾向を減らすことによって達成されうる。」 

 この概念は、「個人レベルのミクロの視点を、環境犯罪学的に理論化する過程において経済学の考え方が導入され」、「古くはベッカー(Becker,G.S.,1968)が経済学で使う「効用(utility)」と「コスト(cost)」という概念を犯罪学における「喜び(pleasure)」と「痛み(pain)」、つまり犯罪により満たされうる欲求とそれに対する刑罰(可能性を含む)という概念に書き換え」 たことに端を発し、「これはのちに合理的選択(rational choice)という概念として犯罪学に組み込まれることになる(Cornish&Clarke,1986)」 ものである。

 こうしたCPTEDを成功させるためには、これを空間の正当な利用者に容易に理解できる実用的なものにしなくてはならない。つまり、近隣の普通の住民や、ビルや商業地区で働く人々が、これらの概念を容易に利用できなければ、CPTED を導入する意味がなくなるからであり、その環境が適切に作用することに対しての既得権利(自分たちの福利)を持つからである 。

2-3、CPTEDの戦略
 CPTEDには、互いに共通する部分を持つ3つの戦略がある。
・自然なアクセスコントロール
・自然な監視性
・領域強化
 アクセスコントロールとは、犯罪を犯す機会を減らすことを狙いとした設計概念である。具体的には、組織的戦略としてガードマンの使用、機械的なものとして錠等が挙げられる。

 アクセスコントロール戦略として最も重要なことは、犯罪者による被害対象へのアクセスを否定し、犯罪者が自分の身に危険を感じるようにすることである 。詳細は、S26頁の図3-1「典型的なアクセスコントロールと監視性の概念と分類」を参照されたい。

3、「防犯環境設計」で守りを固める
 「犯罪の発生を5W1Hの形式で整理すると、Who(だれが)とWhy(なぜ)が犯罪原因論の対象となり、Where(どこで)とWhen(いつ)とWhat(何を)が犯罪機会論の対象となる。How(どのように)は、両方の対象になり得るものであり、例えば、Howが「銃器を使って」という場合には、その銃器を手に入れた側(需要者)に注目すれば犯罪原因論になり、銃器を与えた側(供給者)に注目すれば犯罪機会論になる。また、対人犯罪の場合には、Whatに替わってWhom(だれに)が犯罪機会論の対象となる。

 そこで、WhatとWhomを犯罪者の「標的」として一つにくくり、WhereとWhenとHowを犯行の「場所」として一つにまとめ、それぞれについて、犯罪に強い要素をこれまでの研究成果に基づいて導き出すと、表1(S59頁「犯罪に強い三要素」)のようになる。

 表1でいう「抵抗性」とは、犯罪者から加わる力を押し返そうとするものであり、ハード面の恒常性(一定不変のこと)とソフト面の管理意識(望ましい状態を維持しようと思うこと)から成る。

 「領域性」とは、犯罪者の力が及ばない範囲を明確にすることであり、ハード面の区画性とソフト面の縄張意識(侵入者を許さないと思うこと)から成る。言い換えれば、領域性は、犯罪者にとって、物理的・心理的に「入りにくい」ということである。

 「監視性」とは、犯罪者の行動を把握できることであり、ハード面の無死角性(見通しのきかない場所がないこと)とソフト面の当事者意識(自分自身の問題としてとらえること)から成る。言い換えれば、監視性は、周囲から犯罪者が、物理的・心理的に「見えやすい」ということである。これらが犯罪に強い要素であり、したがって、抵抗性と領域性と監視性が高ければ高いほど、犯罪機会が少なくなる。」 

 「このうち、領域性と監視性のハード面を重視する手法が、欧米諸国で「CPTED」と呼ばれ、日本で「防犯環境設計」と訳されているものである 。」

 この「防犯環境設計」は、「多くの点で防犯空間理論の「継子」(stepchild)的な存在である」 と指摘される。

4、安全・安心のまちづくり
 「防犯環境設計は、学校、公園、道路、住宅などの抵抗性・領域性・監視性を高める手法である。したがって、防犯環境設計は、都市計画やまちづくり計画の中に取り入れられるべきものである。(改行)そのため、日本では、防犯環境設計への取り組みは、主に「安全・安心まちづくり」として推進されている。」 

 この防犯環境設計への取り組みが、日本でも始まったが、「これを本格化するためには、防犯環境設計のスペシャリストを養成したり、防犯環境設計の標準化(規格化)を推進したりする必要がある」 のはいわば当然のことである。

5、犯罪発生のための必須要因と犯罪抑制のための非営利組織の援助
 最終章で、犯罪抑制にこの防犯環境設計が役立った例をご紹介したい。

 この場合、「犯罪発生が生じるためには、3つの要素が不可欠である(式1)。即ち、犯罪を働こうという意志を持った加害者、犯罪の被害者になるということを望んでいない被害者、そして、両者の遭遇を可能とする環境、の3要因である」 との指摘をうけて、この3要因のどれかを欠けさせることによって、犯罪の発生を抑制することができる。

 ただし、犯罪の発生抑制に向け、それを実践させようとしても、累増する赤字からなる日本の財政のことを考えれば、今後は政府や地方公共団体の公的セクターのみでそれを達成することは困難視される。

 そこで、それらを補完するものとして、非営利組織の援助を積極的に受けることが考えられる。筆者が住むのは、東京の町田市であるが、そこは、「西の歌舞伎町」として多摩地区有数の歓楽街を形成しており、それとともに、犯罪件数が多いことでも知られていた。

 そのことに危機感を覚えた市民が、なんとかして町田市、特に町田駅前の中心地、原町田の犯罪を減らす方法はないのかと考え、ローターリークラブと組んで、同クラブが中心市街地に民間交番「セーフティボックスサルビア」 を建設し、犯罪の抑制を図った。「運営方法は商店会、NPO、PTA、町内会の方々が民間交番運営委員会を設置し、運営方針を決定してい」 る。すると、ほどなくしてその効果と思われる変化が生じ、 下記の図のように、犯罪件数が激減した。
町田市内の犯罪件数の比較(警視庁町田警察署調べ)
2004年 2005年    差異
町田市内全犯罪件数 8452 6919 −1533
ひったくり 144 84 −60
空き巣 557 331 −226
強盗 28 24 −4
原町田地区全犯罪件数 1506 1236 −270
ひったくり 17 7 −10

 上図によって明白なことは、いずれの指標も、2004年と翌年をみると、減少していることである。

 原町田地区における犯罪数が減少した理由は、民間交番の設置だけに求められるものではなく、それ以外にも、スーパー防犯灯の設置や、自治会によりパトロール隊が結成され、それが活動したこと等もあげられるであろう。

 しかし、自らのまちを自らの手で犯罪から守ろうとする民間交番の設置が、犯罪数減少の契機になったことは、間違いのない事実である。

 この町田市の例をだしたのは、このリポートの主意である、防犯環境設計を民間の力によって実現させ、民間交番という「環境設計による犯罪防止手法」の成功例として、安全・安心のまちづくりを達成させたまちがあることを広くアピールしたいと考えたからである。

おわりに
 最終章5、で唐突のように、非営利組織による民間交番の例をだしたが、このように行政が直接関わることのない「環境設計による犯罪防止手法」は今後、日本の至るところでみられるようになるであろう。

 その誘因として、筆者は国や地方公共団体の財政難をあげたが、そればかりでなく、自らの問題は、自らが解決するというごくあたりまえのことを、今後の日本ではねばり強く行わなければならないという筆者の決意もこめたつもりである。

『参考文献一覧』(順不同)
1、都市犯罪防止のための環境設計基準に関する研究会(座長:伊藤滋(東京大学工学部)教授)編『都市犯罪防止のための環境設計基準の研究』(財団法人日本地域開発センター、1984年)17-31頁。
2、都市防犯研究センター編『都市開発と犯罪発生に関する調査研究報告書』(警察庁委託研究事業)(財団法人都市防犯研究センター、1992年)33、183-202頁。
3、ティモシー・D・クロウ:著 猪狩達夫:監修 高杉文子:訳『環境設計による犯罪予防−建築デザインと空間管理のコンセプトの応用−』(都市防犯研究センター、1994年)1-2、35-64頁。
4、谷岡一郎『こうすれば犯罪は防げる−環境犯罪学入門』(新潮社、2004年)118-156頁。
5、小宮信夫『犯罪は「この場所」で起こる』(光文社、2005年)44-75頁。
6、アルバート・J・リース・ジュニア、マイケル・トンリィ共編『コミュニティと犯罪』(?)伊藤康一郎訳(都市防犯研究センター、1995年)