【箇所】早稲田大学大学院 公共経営研究科
【科目】経営品質【開講学期】2009年度 前期[2単位]
【担当】岡本 正耿 客員教授〈早稲田大学大学院 公共経営研究科〉
【期末課題リポート】規則主義、部門(専門)性、階層性、文書主義など官僚主義には逆機能(マイナスの作用)があるといわれます。それはどういうものでしょうか。
【指定分量】1,200字以内
1、本レポートで扱う「官僚主義」の対象者
本レポートで扱う「官僚主義」を考える際、この語を『広辞苑』(第二版補訂版)に照らすと、次の記述がある。
「官僚政治に伴う一種の傾向・態度・気風。専制・秘密・煩瑣・形式・画一などを特徴とする。官庁だけでなく、政党・会社・組合など大規模な組織に伴うこともある。(以下、略)」
ここから、『広辞苑』では官僚主義とは、官庁にとどまらないことが読み取れるが、再び『広辞苑』で今度は、「官僚」に当たると、「行政の執行者。官吏。役人。」と記されている。
すると、「官僚」を「官吏」あるいは「役人」、「行政の執行者」である「公務員」と特定しても、あながち齟齬はきたさないものと考えられるので、本レポートにおいて「官僚主義」を考える際には、「公務員」をその対象者とする。
2、日本国憲法にみる「公務員」と「公務員」の傾向・態度・気風
その公務員を、憲法に即して考えてみたい。すると、下記の条が該当するものと考えられる。
15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
73条 4 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
まず、73条から考えると、「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」から、“公務員の勤務条件法定主義”が導かれる 。
このように公務員は、勤務条件が法定されているために、それに拘泥されてしまう傾向が、国民からは見て取れる。それを看取した『広辞苑』では、「官僚政治に伴う一種の傾向・態度・気風」と記したのであろう。
つまり、憲法15条にある、「国民固有の権利」である「公務員の選定権」をもつ国民が公務員を監理するのではなく、法律によってその勤務条件が規定されると理解してしまう公務員の「気風」を、国民は感じ取ってしまうのである。これが、「規則主義」にみる「官僚主義」の逆機能である。
3、マックス・ウェーバーの官僚制論
ここで、「マックス・ウェーバーが、官僚制という集団が行政手段を供与され専門的知識とひきかえに報酬をえる職業人であることを明晰に指摘していることに注目したい。」
ウェーバーは、「官僚制を近代社会に普遍的な組織構造として、次のような諸特徴を持つものとし」 、それは下記のとおりである。
(1)明確な権限の配分
(2)職務の階層制的構造
(3)役所と私生活の分離
(4)職務の専門的遂行
(5)フルタイムの専念
(6)一般的な規則による職務遂行
ここで、筆者が注目したのが、(6)の「規則による職務遂行」である。
これは、前近代における人的支配=人治主義とは異なり、規則による支配=法治主義として特徴づけられる。
ここから、官僚主義を、合理性を実現した西欧近代社会を特徴づけるものであり、官僚を恣意による支配ではなく、合法的に支配する際には、避けてとおることはできない、一種の属性として、規則主義、部門(専門)性、階層性、文書主義などが官僚主義に内包されるものであると、筆者は考える。これらが、いわゆる「お役所仕事」の由来であろう。