町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

一橋大学 国際・公共政策大学院「立法学」期末リポート大学での活動

2011.08.06(土)

【箇所】一橋大学 国際・公共政策大学院 公共法政プログラム
    一橋大学大学院 法学研究科 修士課程・博士後期課程
【科目】立法学【開講学期】2011年度 夏学期[2単位]
【担当】松永 邦男〈当時:内閣法制局総務主幹;内閣法制局第三部長、早稲田大学大学院法務研究科客員〉教授

表題:課題B 野良猫に餌を与える等の行為についての対策のための条例案の立案

主張のポイント
 当該地方公共団体である甲市においては、甲市民の良好な生活環境の確保と伸張を志向し、それが侵された場合の回復に資することを企図し、その一環として、野良猫等の小動物をこれ以上増やすことは甲市民の良好な生活環境の悪化につながることを懸念し、野良猫等をむしろ減らすことを目的として、本条例(案)を立案するものである。

 甲市において、動物の保護に熱心な市民や猫好きの複数の市民が、野良猫等に餌を与えることによって、餌を求める野良猫やそれに付随してカラス等も多数あつまり、その結果、それらの鳴き声や猫等の糞尿が発する悪臭等により、市民の良好な生活環境が損なわれている状況がみられる。

 あるいは、野良猫、野良犬、カラス等の動物に大量の餌を自宅で与えることによって、それを求めて多数の上記小動物が、上記の餌をやる特定の市民宅に集散する結果、周辺の住民が悪臭や騒音等に悩まされ、それを以て良好な生活環境が侵害されたと認識し、その件で甲市役所に相談に来ている甲市民がいることを鑑みて、甲市民の良好な生活環境を回復させることを目的として、本条例を提案するものである。

 ただし、野良猫等の動物に餌を与えることに関して、「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和四十八年十月一日法律第百五号)の趣旨は、当然ながら尊重されなければならない。

 また、野良猫等に餌を与える場合、自宅の庭等の私有地におけるものは当条例(案)の影響が及ぶ対象地外とし、当条例(案)の対象とする場所は、道路、公園、河川敷等の公有地とする。その際、たとえ公有地においても、栄養不良等の結果、瀕死の状態にある野良猫に餌を与えることは動物の愛護の観点から、当条例(案)は適用されない。

 しかし、甲市民の自宅の庭等の私有地での野良猫等への餌やりであっても、それが大量なもので、その餌やりの結果、当該の餌をやる市民宅に何匹もの野良猫、野良犬、カラス等の動物が、常時、滞在してしまう場合においては、近隣の住民の良好な生活環境が損なわれる場合があるため、当条例(案)は、適用される。

目次
立案ペーパー
1)政策目的
2)関係する主たる課題
3)採るべき方策案
(1)基本的方向
(2)具体的施策案
4)法的整備の必要性
(1)条例制定の必要性
(2)条例に盛り込むべき事項とその問題点
5) その他

条例案
 課題B 野良猫に餌を与える等の行為についての対策のための条例案の立案に当たっては、下記の条例案を以てその条例案の題名とする。
   甲市良好な生活環境の確保に関する条例(案)
第1条 (目的)
第2条 (定義)
第3条 (市の責務)
第4条 (市民等の責務)
第5条 (事業者の責務)
第6条 (給餌による不良状態の禁止)
第7条 (廃棄物等による不良状態の禁止)
第8条 (甲市生活環境審査会)
第9条 (勧告及び命令)
第10条 (立入り調査等)
第11条 (代執行)
第12条 (違反者の公表)
第13条 (委任)
第14条 (罰則)
第15条 
第16条 (両罰規定)

立案ペーパー
1)政策目的
 甲市において、動物の保護に熱心な市民や動物好きの市民(複数)が、野良猫等の動物に餌を与えている事例がみえる。そのことにより、野良猫やそれに付随してカラス等が多数集まることで生じる鳴き声や野良猫等の糞尿から発せられる悪臭等を問題視する甲市民の意見が甲市に寄せられている。このように野良猫等の集散によって、良好な生活環境に悪化がもたらされていると実感する甲市民が、少なからず甲市にいるのである。

 先日も、早朝から野良猫への餌やりを行っていた市民とこれを止めさせようとした市民との間で諍いが生じ、甲市に対しては、「動物保護派・餌やり賛成派」と「餌やり反対派」の双方から、苦情が寄せられている。

 また、自宅で野良猫、野良犬、カラス等の動物に大量の餌を与える行為を行っている甲市民がいるため、常時、同市民の敷地内には何匹もの猫、犬、カラス等が滞在することで、そこから発生する悪臭や騒音等に近隣の住民は悩まされており、甲市民による不特定の動物への大量の餌やりが、甲市民の良好な生活環境を悪化させていると、甲市に相談する事例もある。

 このように、甲市においては、野良猫等の動物をめぐって、動物保護の視角からの餌やり賛成派と、野良猫等の動物への餌やりが市民の良好な生活環境に悪影響を与えることになると考える餌やり反対派との双方が諍いを起こすことが、顕在化している。

 そこで、上記諸問題の解消を企図する条例(案)をつくることが、当政策の目的である。

2)関係する主たる課題
上記1)の政策目的を達成するために、関係する主たる課題を下記にあるように、列挙する。

(1) 野良猫等の飼養されていない動物に餌をやることを、条例をつくる視角から問題視すべきなのか。

(2) 甲市民と野良猫等の飼養されていない動物との共生は図られなければならないと考えられるが、それを実現させるためには、どのような関係を構築することがよいのか。

(3) 上記(2)の関係を構築させる際、そのことによって、甲市民と飼養されていない動物との共生は、甲市民の良好な生活環境の確保に資するものとしなければならないと考える。

(4) 野良猫等の飼養されていない動物に餌をやること、それを条例で禁止させることは、可能なのか。

(5) 野良猫等の飼養されていない動物に餌をやること、それを条例で禁止するとして、それは条例事項とするのか訓示規定とするのか。

(6) (4) において、野良猫等への動物に餌をやることを禁止した条項をいれた条例案をつくった場合、それに違反した場合には、罰金等の罰則をもうけることは必要なのか。

(7) (4)のことが、可能として、その際、日本国憲法(以下、「憲法」という。)に抵触するおそれはないのか。

(8) (4)のことが、可能として、その際、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、「動物愛護法」という。)に抵触するおそれはないのか。

(9) 甲市民の某氏が自宅で、野良猫、野良犬、カラス等の動物に大量の餌をあたえることで、その結果、同市民宅には、常時、何匹もの猫、犬、カラス等が滞在し、そのことで、同市民宅は通称「犬猫屋敷」と近隣住民から呼ばれることとなり、同市民宅の隣人は、悪臭や騒音に悩まされている。そのことを同市民に伝えても一向に改善される様子がみえないため、甲市にそのことで相談にみえる市民がいるが、このように、自宅で野良猫、野良犬、カラス等の動物に餌を与えることで、その周辺の良好な生活環境が悪化した場合、それに対して、甲市は、どんな施策を講ずるのが適切と考えるべきなのか。

(10) 東京都荒川区がHP等で公表している情報によれば、メス猫の妊娠率は、ほぼ100%といわれている。メス猫は、年に2回ほど出産し、1回に2〜8匹の子猫を産むとされている。こうして増えていく飼い主のいない猫たちは、餌を探してごみ集積場を荒らしたり、排泄物による被害を近隣住民に与えてしまったりする。

 しかしながら、猫は動物愛護法により、愛護される動物として定められており、駆除の対象となるネズミとは異なり、処分を目的として捕獲することができない。

 こうした、野良猫の問題に関して、その根本的な解決のためには、不妊・去勢手術による繁殖抑制が効果的な対策であることは、周知の事実であり、それは動物愛護法でも指摘しているところである。
 上記のことを迅速にすすめるためには、甲市はどのような施策を行うことが適切であるのか。

(11) 野良猫等への餌やりを条例で禁止せず、それを自由に行うことを可能にした場合、餌が放置されて、ハエ等の害虫や悪臭の発生等衛生的に問題とされることや、カラスやネズミ等も放置された餌を求めて集散する可能性が高くなるが、それに対して甲市はどのような施策を講ずることが適切なのか

(12) 「野良猫は減った方が、増えることよりも望ましい」と考える市民は、多くいることが予測される。このように考える市民が、自主的に野良猫の清掃等を行い、甲市民にとって良好な生活環境の維持、伸張を図ったり、餌を与えて飼い主のいない猫を懐かせ、不妊・去勢手術を自費で行ったり、新たな飼い主を探したりもしているようである。

 このような市民こそが、野良猫の問題を解決する際に重要視されるのは、いうまでもない。そのような方々を、この野良猫等の餌に関する問題に関して、どのように関与させるのが、甲市にとっても、その活動をされている方々にとっても有効であるのか。

(13) 野良猫等の動物と人間とは、適切な関係を保つことが、動物愛護の視角からも大切なことと考えられるが、その適切な関係とは、いったいどのような関係を指すのか。

3)採るべき方策案
(1)基本的方向
1、甲市内に在住するP氏所有の通称「犬猫屋敷」と呼ばれる家の近隣住民は、P氏による野良猫、野良犬、カラス等の動物への餌やりの結果、常時、何匹もの猫、犬、カラス等が、P氏宅及びその庭に滞在しているため、そこから発生する悪臭や騒音に悩まされており、甲市役所に、P氏に対する苦情が寄せられている旨を、甲市役所職員がP氏に口頭と文書で通知する。

2、上記1、の通知を、P氏が聞かなかった場合、あるいは、聞いても、近隣住民への配慮を示すことなく、野良猫、野良犬、カラス等の動物への餌やりを実行し続けるがごとき、P氏に一向に改善の傾向が認められない場合には、どのような方策をとるのが適切なのかを、あらためて担当部署において協議する。

3、上記2、の協議の結果、なおもP氏がこの件での問題解決に応じない場合には、甲市が東京都にあるのであれば、東京都動物愛護相談センターに相談するし、甲市が東京都以外の道府県にあるのであれば、東京都動物愛護相談センターと同様の施設に相談する。その道府県に、東京都動物愛護相談センターと同様の施設がない場合には、厚生労働省等に相談すべきかどうかを引き続き協議する。

4、上記政策目的を達成する際には、甲市は、学識経験者や被害地域の市民、その他一般の甲市民も交えて構成された「甲市野良猫等問題検討会」(仮称)を設置し、そこに甲市長が、この問題について検討するよう諮問する。
 その後、「甲市野良猫等問題検討会」(仮称)は、同検討会において検討された結果を以て構成される答申を、甲市長あてに送り、その答申の内容を甲市は踏まえたうえで政策目的を達成するようにしなければならない。

(2)具体的施策案
1、3)(1)の基本的方向に沿って、甲市が東京都内にあるとして、東京都動物愛護相談センターに甲市が相談し、それを同センターが受け入れ、同センターがP氏に対して講じることができるのは、指導であって、それには強制力は伴わない。

2、3) (1)4、にある「甲市野良猫等問題検討会」の設置が、早急に行われること。

4)法的整備の必要性
(1)条例制定の必要性
1、野良猫、野良犬、カラス等の動物に、市民が大量の餌やりを行うことについて、それを止めさせ、良好な生活環境を維持させるための条例を制定するか否か、それに関して、市民の意見をきく機会を設けなければならないと考える。
 その際、パブリックコメントの活用等によって、市民の意見を広範囲に聞くことは必須のことである。

2、条例の制定をするか否か、それを市民に問う際には、甲市は当然ながら市内の実態を把握している必要があるので、野良猫、野良犬、カラス等への餌やりの実態を調査する担当を設置する。

3、上記1、の調査の結果、市民に条例制定への意見が多くあった場合には、条例化に向けて、甲市がある道府県警察(東京都の場合は警視庁)と都道府県との協議を開始し、それと並行して、地方検察庁との協議も始める。

(2)条例に盛り込むべき事項とその問題点
1、動物への餌やり行為によって近隣住民に被害が生じたとしても、条例化に当たっては、動物愛護法44条2項、荒川区良好な生活環境の確保に関する条例の趣旨に照らした場合、野良猫に対する餌やりの違法性を判断することが必要とされると考える。その際、次の各要素が問題点として検討されるべきである。

(ア) 餌やり行為の意図が動物愛護法の趣旨に基づくものかどうか。

(イ) 野良猫を適正に管理し,無制限な増殖や被害を防ぐという目的を有するかどうか。

(ウ) 野良猫の管理について,継続して,一定の準則の下に管理する意思があったかどうか。

(エ) 野良猫の管理について,餌やりの方法や不妊去勢手術の実施等,相当な方法が採られたどうか。

(オ) 野良猫の管理の結果,野良猫の数が減少したかどうか。

(カ) 野良猫の糞尿被害やゴミ集積所での被害がどの程度のもので,その地域の生活環境が不良状態に至ったかどうか。

(キ) 猫への餌やり行為に反対する当事者が,餌やり行為に代わる何らかの代替案を検討したかどうか。

(ク) 猫への餌やり行為に反対する当事者が,里親を探すなど代替的手段について協力をしたかどうか。

(ケ) 猫への餌やり行為に反対する当事者が,代替的手段について協力しなかったとしても,餌やりをしている者に対して,何らかの代替的手段を提案し,その実行を求めたかどうか。

2、「猫への餌やり禁止等請求事件」(平成22年5月13日東京地裁判決)によれば、野良猫への餌やりについては、「現在の法秩序の下では,規約で猫等の飼育を認めなかったり,マンション敷地での野良猫に対する餌やりを禁止したりすることが公序良俗に反し無効であるなどと解することはできないものである。」との見解がある。

3、上記4)(1)1、の結果、市民の多くの意見が条例制定に向けて、それを待望していることが確定していることが判明したならば、上記4)(1)3、との協議を引き続き進める。
 その際、条例案をもとに地方検察庁との協議を進め、地方検察庁からの原案了承の回答を得ることとする。

4、上記3、で地方検察庁から条例案の了承を得たならば、再び、条例案を基にした、パブリックコメントを実施する。

5、条例に盛り込むべき事項において、甲市の責務(役割)を明確化させる。その際、考えられるのは、たとえば、野良猫等への餌やりの結果、近隣住民の良好な生活環境をそこなったとするならば、甲市は、上記良好な生活環境の悪化防止に資する施策を甲市民や地域と協力して実施し、人と野良猫等との適切な関係を実現するといったことである。

6、条例に盛り込むべき事項において、甲市民等の責務(役割)を明確化させる。その際、考えられるのは、甲市の実施する施策や、地域の被害防止のための取り組みに積極的に協力するといったことである。

7、条例に盛り込むべき事項において、地域の責務(役割)を明確化させる。その際、考えられるのは、地域における啓発活動、環境保全、ごみ対策等、良好な生活環境の悪化防止に資する運動に取り組むといったことである。

5) その他
 甲市が東京都内にあるとないとにかかわらず、地域における猫に関する活動の、今日における適切な位置付けを知るために資すると思われるので、ここに国及び東京都の施策の変遷等について検討する。

(ア) 近年,少子高齢化,核家族化等の進展に伴い,動物は家族の一員,人生のパートナーとして,ますます重要となっている。幼少時に動物と接することは,生命尊重や情操をはぐくむ上で,とても重要なことである。
 東京都の動物愛護行政の変遷をたどれば,平成4年からの時期は,動物飼養への指向が広がる一方で,動物の虐待や不適正な飼養による近隣トラブルが顕在化してきたため,犬のしつけの徹底など動物飼養をより適正なものにし,人と動物とのより良い関係づくりを進めていくことが社会的に求められてきた。東京都は,平成10年,猫に関する様々な問題を解決するため,「猫の適正飼育推進策」について,東京都動物愛護保護管理審議会での審議,答申を踏まえた取組を開始した。
 平成11年,動物愛護法の改正が行われ,特に動物は命あるものであることの再認識や動物への理解とともに,周辺環境への配慮など飼い主等の責務が強化された。
また,平成14年,東京都動物の愛護及び管理に関する条例(この名称は,改正後のものである。)の改正を行い,動物愛護施策の推進に当たっては,広く愛護関係団体や都民などと協力して推進していくことになり,現在に至っている。
 東京都は,平成16年3月,同条例3条に基づき,「東京都動物愛護推進総合基本計画(ハルスプラン)」を策定した。
同計画によれば,区市町村の地域に応じた取組の実施例として,飼い猫の不妊・去勢措置及び屋内飼養の普及啓発が挙げられ,「行政と地域社会との連携」中の「地域の問題解決能力の向上」の項で,東京都は,区市町村や地域住民の主催する適正飼養講習会への講師派遣等を通じて,地域の実情に合わせた飼い方等適正飼養の向上を図るとともに,これまでの問題解決事例の蓄積を生かし,区市町村に協力して地域の問題解決能力の向上を促進し,さらに,地域住民によって組織された動物愛護団体の活動を,区市町村と共に支援・協力しながら動物愛護を推進していくこととしている。
 さらに,「飼い主のいない猫との共生支援事業」の項で,「飼い主のいない猫との共生モデルプラン」は,地域住民が主体となり,経験と専門知識を有するボランティア,区市町村及び東京都との協働により飼い主のいない猫によるトラブルの解決を図る活動であり,事業に対する理解が確実に浸透しつつあり,今後は,モデルプランの実施結果に基づき,具体的解決策を取りまとめたガイドラインを作成し,区市町村,地域住民への提供を通じて,住民自らの取組の推進,区市町村によるボランティアの公募等による協力者の組織化,ボランティアによる地域の普及啓発,動物愛護推進員による活動など,区市町村による取組の更なる展開を図り,東京都は地域ぐるみの取組に対する不妊去勢措置等の支援の検討など,技術的,専門的支援を推進していくとされている。

(イ) 「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」(平成14年環境省告示第37号。最終改正は,平成19年11月12日環境省告示第104号)は,次のとおり定めている。

a 一般原則
家庭動物等の所有者又は占有者(以下「所有者等」という。)は,命あるものである家庭動物等の適正な飼養及び保管に責任を負う者として,終生飼養するように努めること。
所有者等は,人と動物との共生に配慮しつつ,人の生命,身体又は財産を侵害し,及び生活環境を害することがないよう責任をもって飼養及び保管に努めること。

b 共通基準
所有者等は,自らが飼養及び管理する家庭動物等が公園,道路等公共の場所及び他人の土地,建物等を損壊し,又は糞尿その他の汚物,毛,羽毛等で汚すことのないように努めること。
 所有者は,原則としてその家庭動物等について去勢手術,不妊手術等その繁殖を制限するための措置を講じること。

c 人と動物の共通感染症に係る知識の習得等
所有者等は,家庭動物等と人に共通する感染性の疾病について,正しい知識を持ち,その飼養及び保管に当たっては,自らの感染のみならず,他の者への感染の防止にも努めること。

d ねこの飼養及び保管に関する基準
ねこの所有者等は,ねこの屋内飼養に努めること。
屋内飼養以外の方法により使用する場合にあっては,頻繁な鳴き声等の騒音又は糞尿の放置等により周辺地域の住民の日常生活に著しい支障を及ぼすことのないように努めること。
ねこの所有者は,繁殖制限に係る共通基準によるほか,屋内飼養によらない場合にあっては,原則として,去勢手術,不妊 手術等繁殖制限の措置を講じること。
ねこの所有者は,やむを得ずねこを継続して飼養することができなくなった場合には,適正に飼養することのできる者に当該ねこを譲渡するように努め,新たな飼養者を見いだすことができない場合に限り,都道府県等に引き取りを求めること。

イ 地域猫活動
(ア) 地域猫活動は,次のようなものと理解することができる。
a 確かに,ある場所で野良猫に餌やりを行えば,野良猫は,その場所に居着き,排泄し,繁殖する。

b しかし,野良猫の問題は,飼い主である人間が身勝手に飼い猫を捨てたことによって発生した問題である。
都市部の野良猫に餌やりを行わずに放置すれば,ゴミ集積所等を荒らすようになり,また,雌猫は年に3,4回妊娠し,1回に4ないし6匹を産むから,どんどんその数が増えていく結果になる。
 野良猫を毒餌を撒くような方法で殺すことは,動物愛護法に違反し,動物愛護相談センター等での致死処分は,本来,動物愛護の精神に反するから,自然に数を減少させていくことが望ましい。

 野良猫を捕まえて他の地域に持っていって捨てれば,その地域の問題はとりあえず解決するが,他の地域に迷惑をかけるし,他の地域も同じことを始めれば,結局は押し付け合いの地域エゴに陥ってしまう。

c この問題を解決するには,猫に不妊去勢手術を行い,餌やりや猫のトイレを適切に管理し,猫の一代限りの命を尊重しながら時間をかけて野良猫の総数を減らしていく必要がある。野良猫は,暑さ寒さだけでなく,交通事故や感染症の危険にさらされるなど厳しい環境の中で生きているから,その平均寿命は4年程度である。

d 不妊去勢手術を行うことにより,地域の野良猫はそれ以上増えていくことがなくなるだけでなく,雄同士のけんかによる騒音,マーキングのためのおしっこのふりまきによる悪臭,及びさかりの時期の騒音を減少させることができる。

e 猫への餌やりに当たっては,カラスや虫がたかって不衛生になることを防ぐため,餌を置きっぱなしにせず,餌を与え終わったらすぐに容器を片付ける必要がある。
 多くの猫が1箇所に集まり,被害を生じさせる場合は,餌やりをする場所をいくつかに分散して,猫の集中を避ける必要がある。

f 野良猫用のトイレを作ることで,糞が1箇所に集まり,清掃もしやすく,臭いがあちこちに拡散することを防ぐことができる。

g 餌やりやトイレの設置は,協力者の家の敷地や管理者の了解を得た上で公共の場所で行うことになる。

h 以上の方法により,地域に対する被害を可能な限り少なくすることができるが,猫が屋外で生活すること自体は変えられないから,被害を完全に零とすることはできない。

i 地域の住民は,猫に対して様々な意見を有するから,地域猫活動は,自治会活動や住民へのPRにより,地域の共通理解を図りながら行っていく必要がある。

j 捨て猫は,新たな野良猫を発生させ,地域猫活動の効果を減じるものであるから,ポスターの掲示,町内パトロールなどにより防止する必要がある。

(イ) 「「飼い主のいない猫」との共生をめざす街ガイドブック」は,地域住民が各地域での問題解決に乗り出す際の参考になるように,前記「東京都動物愛護推進総合基本計画(ハルスプラン)」に記載された「飼い主のいない猫との共生モデルプラン」事業で行われた取組の状況を取りまとめたものである。

ウ 動物愛護法の解釈
 動物愛護法44条2項は,「愛護動物に対し,みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行った者は,五十万円以下の罰金に処する。」と規定しているが,野良猫に対しての餌やり行為を中止しても,この条項に違反することはない。ただし,当該猫が飼い猫の程度に至った場合には,この条項に違反することになる。

エ 荒川区良好な生活環境の確保に関する条例
(ア) 荒川区良好な生活環境の確保に関する条例(平成20年12月17日荒川区条例第23号)は,次のとおり規定している。

a 5条
区民等は,自ら所有せず,かつ,占有しない動物にえさを与えることにより,給餌による不良状態を生じさせてはならない。

b 8条
1項 区長は,第5条の規定に違反して給餌による不良状態を生じさせた違反者に対し,期限を定めて,周辺住民の生活環境に係る被害を防止し,除去するために必要な限度において,当該不良状態の防止又は除去のための措置その他の必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2項 区長は,前項の規定による勧告を受けたものが当該勧告に従わないときは,そのものに対し,期限を定めて,当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

c 14条
第8条第2項の規定による命令に違反したものは,5万円以下の罰金に処する。

d その他
他に,代執行(10条)及び違反者の公表(11条)についての規定がある。

(イ) 同条例は,餌やりそのものを禁止するものではなく,餌やりによる地域の生活環境を不良状態にすることを禁止するものであり,地域猫活動を支援するものではあっても,同活動を禁止するものではないと説明されている。

条例案
   甲市良好な生活環境の確保に関する条例(案)
(目的)
第1条 この条例は、健康生活阻害行為の防止等について必要な事項を定めることにより、市民の良好な生活環境を確保し、清潔で美しいまちづくりを進めることを目的とする。

2 市は、この条例の運用に当たっては、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)その他の関係法令の趣旨を十分に踏まえるものとする。

(定義)
第2条 この条例において次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1) 健康生活阻害行為 市民の健康で快適な生活を阻害する行為をいう。

(2) 良好な生活環境 市民が健康で快適に暮らせる生活環境をいう。

(3) 市民等 市民、市の区域内(以下「市内」という。)に滞在する者(通過する者を含む。)及び市内において事業活動を行う全ての者をいう。

(4) 給餌 自ら所有せず、かつ、占有しない動物に餌を与えることをいう。

(5) 給餌による不良状態 次のいずれかに該当するものにより周辺住民からの市長に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で当該被害の発生が共通の認識となっていると認められる状態をいう。

 ア 給餌による餌を目当てに集散する動物の鳴き声その他の音

 イ 給餌による餌の残渣(さ)又は給餌による餌を目当てに集散する動物の糞尿その他の汚物の放置又は不適切な処理及びこれらにより発生する臭気

 ウ 給餌による餌を目当てに集散する動物の毛又は羽毛

 エ 給餌による餌を目当てに集散する動物の威嚇行為

(6) 廃棄物 市民等の生活又は事業から発生し、遺棄された物又は遺棄とみなされる状態で放置された物をいう。

(7) 廃棄物等による不良状態 廃棄物等(廃棄物並びに雑草、枯れ草及び樹木をいう。以下同じ。)により、次に掲げる状態のうち2以上が生じていると認められる状態をいう。

 ア 廃棄物等により、はえ、蚊その他の害虫又はねずみが発生し、周辺住民の生活環境に係る被害が生じ、又はそのおそれがある状態

 イ 廃棄物等が火災発生の原因となり、付近の建築物に類焼する危険がある状態

 ウ 廃棄物等が道路上の歩行者並びに車輌(りょう)の通行及び視界の妨げとなっている状態

 エ 廃棄物等の臭気により、周辺住民の生活環境に係る被害が生じている状態

 オ 廃棄物等により、ごみの不法投棄を招いている状態

(市の責務)
第3条 市は、市民等の理解と協力の下、良好な生活環境を確保するための施策を推進するよう努めなければならない。

2 市は、この条例の規定に違反する疑いがあると認められる行為について市民等から申立てを受けたときは、その内容について調査を行い、この条例の定めるところにより必要な措置をとらなければならない。

3 市は、この条例の規定を実現させるために、市民や市内各団体と協力して様々な施策を実施しなければならない。

4 市は、市内の良好な生活環境を保全することを目的として、市民が、健康生活阻害行為を行うことがないように、広報活動等を通じてその啓発を図るように努めなければならない。

(市民等の責務)
第4条 市民等は、周辺住民の生活環境に配慮し、自ら健康生活阻害行為を行わないようにするとともに、周辺と調和した良好な生活環境を確保するための活動に自主的に取り組むよう努めなければならない。

2 市民等は、市又は市民等が実施する良好な生活環境を確保するための施策、活動等に協力するよう努めなければならない。

3 市民等は、自ら飼育し、又は管理する犬又は猫等の動物が家庭の外で糞をしたときは、その糞を持ち帰り、処理しなければならない。

(事業者の責務)
第5条 事業者は、市が実施する環境美化の促進に関する施策に協力しなければならない。
(給餌による不良状態の禁止)

第6条 市民等は、自ら所有せず、かつ、占有しない動物に餌を与えることにより、給餌による不良状態を生じさせてはならない。

(廃棄物等による不良状態の禁止)
第7条 土地又は建築物を所有し、占有し、又は管理するものは、当該土地、建築物及びその周辺(以下「土地等」という。)を廃棄物等によって不良状態にしてはならない。

(甲市生活環境審査会)
第8条 次条第2項の規定による命令、第10条第1項の規定による立入調査及び質問並びに第12条第1項の規定による公表の実施について、市長の諮問に応じて調査審議するため、市長の附属機関として、甲市生活環境審査会(以下「審査会」という。)を設置する。

2 審査会は、学識経験を有する者のうちから、市長が委嘱する委員5人以内をもって組織する。

3 委員の任期は、2年とし、再任を妨げない。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。

4 前2項に定めるもののほか、審査会の組織及び運営に関し必要な事項は、甲市規則(以下「規則」という。)で定める。

(勧告及び命令)
第9条 市長は、第6条の規定に違反して給餌による不良状態を生じさせた者又は第7条の規定に違反して土地等を廃棄物等による不良状態にした者(以下これらの者を「違反者」という。)に対し、期限を定めて、周辺住民の生活環境に係る被害を防止し、又は除去するため必要な限度において、当該不良状態の防止又は除去のための措置その他の必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

2 市長は、前項の規定による勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、その者に対し、期限を定めて、周辺住民の生活環境に係る被害を防止し、又は除去するため必要な限度において、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

3 市長は、前項の規定による命令をしようとするときは、あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない。

(立入調査等)
第10条 市長は、この条例の施行のため必要な限度において、職員をして違反者の所有し、占有し、又は管理する土地又は建築物に立ち入らせ、必要な調査をさせ、又は関係人に質問させることができる。

2 市長は、前項の規定による立入調査又は質問をしようとするときは、あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない。ただし、市民の生命、身体、健康又は財産に対する危険を避けるため特に緊急を要する場合で、あらかじめ審査会の意見を聴く時間的余裕がないときは、この限りでない。

3 市長は、第1項の規定による立入調査又は質問を行ったときは、速やかにその旨を審査会に報告しなければならない。

4 第1項の規定により立入調査又は質問をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これをすみやかに提示しなければならない。

5 第1項の規定による立入調査又は質問の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(代執行)
第11条 市長は、第9条第2項の規定による命令(第7条の規定に違反して土地等を廃棄物等による不良状態にしたものに係る者に限る。)に基づく行為が履行されない場合において、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ、その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、行政代執行法(昭和23年法律第43号)の定めるところにより、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

(違反者の公表)
第12条 市長は、第9条第2項の規定による命令を受けたものが、正当な理由がなく、当該命令に従わなかったときは、その旨を公表することができる。

2 市長は、前項の規定による公表をしようとするときは、当該命令を受けた者に対し、意見を述べ、証拠を提示する機会を与えなければならない。

3 市長は、第1項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ審査会の意見を聴かなければならない。

(委任)
第13条 この条例の施行について必要な事項は、規則で定める。

(罰則)
第14条 第10条第1項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対し答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者に対し、直ちにその違反行為を中止し、又は是正し、その他必要な行為を行うように指導し、又は勧告することができる。

第15条 第8条第2項の規定による命令に違反した者に、2万円以下の罰金に処する。

(両罰規定)
第16条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、当該法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、当該法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

附 則
 この条例は、平成(改元したときはそのときの元号)○年○月○日から施行する。