町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

慶應義塾大学 文学部専門教育科目「国語学」大学での活動

2020.02.23(日)

【箇所】慶應義塾大学 文学部専門教育科目≪通信授業≫
【科目】「国語学」[2単位]
【著者】折口 信夫
【問題】日ごろよく耳にすることばでも国語辞典に載っていないものを(以下、略)。

慶應義塾大学通信教育講座は1948(昭和23)年に開講されましたが、当テキストはその翌年の1949(昭和24)年に刊行されました

「国語学」レポート

国語辞典に載っていない3語

1、フレッシュ

2、耳毛

3、ほぼほぼ

1、フレッシュ

1-1、ここで採り上げる「フレッシュ」ということば

 ここで採り上げる「フレッシュ」とは、英語のfreshに由来し、全国的に使われているフレッシュということばではない。

 なぜならば、そのフレッシュであれば、たとえば『広辞苑』(第七版)では、「新鮮なさま。清新」との説明が付されている、国語辞典に載っていることばであるため、問題への解答としては適当ではないからである。

1-2、コーヒーに入れるクリームの種類

 そのフレッシュの説明の前に、コーヒーに入れるクリームについてふれたい。なぜならば、ここでのフレッシュとは、クリームのことだからである。

 コーヒーに入れるクリームはわが国では大きく分けて、粉末タイプと小型のポット状のものに入れられたポウションタイプの2種類がある。

 今回採り上げたフレッシュとは、このポウションタイプのクリームのことを指し、食品分類上の区分は、植物性油脂食品、あるいは植物油脂クリーミング食品とされるものである。

 このフレッシュでは、調べた限りの国語辞典(『広辞苑』、『大辞林』、『新明解国語辞典』、『三省堂国語辞典』、『デイリーコンサイス国語辞典』、『明鏡国語辞典』、『角川必携国語辞典』)には載っていない。しかし、関西圏に限れば、日ごろよく耳にすることばである。

 このフレッシュを商品名に冠する製品は多く、たとえば、黒川乳業株式会社は、「コーヒーフレッシュA」として販売している[1]。これ以外にも、フレッシュの名を冠した商品は多々ある[2]

 筆者は、大阪に行った際にこの「フレッシュ」ということばをはじめて聞いた際に、なにを指しているのか皆目分からなかったが、それがコーヒークリームのことだと知ると、大阪らしいネイミングだと思ったものである。その後、大阪に行く度に喫茶店にはしばしば行ったが、このフレッシュは、よく耳にすることとなった。

 同様の例として、レーコー(冷コー)が挙げられる。これは、東日本におけるアイスコーヒーのことである。東日本ではアイスコーヒーのことを省略して、「アイス」とは言うが、関西圏のようにレーコー(冷コー)とは言わないように、このポウションクリームを東京では、フレッシュではなく、多くの場合クリームという。

 したがって、問題にある「日ごろよく耳にすることば」といっても、そこには、関西圏では、という限定が付されることとなる。

1-3、「フレッシュ」が国語辞典に載らない理由と考察

 先に挙げた例を用いて、クリームを『広辞苑』に当たると、①で「牛乳から分離採取した脂肪分」として載っている。これは、小稿における「フレッシュ」とは異なり、クリームは全国的に広く使われていることばであるため、国語辞典に載っているのだと考えられる。このように、全国的に広く使われていることばは、当然のこととして国語辞典に載っている。

 それでは、フレッシュが、なぜ国語辞典に載っていないのかを考察する。

 フレッシュと同じように、関西でよく使われることばに、「あほ」ということばがあるが、この「あほ」を『新明解国語辞典』(第七版)では「あほう」の項目において、「関西方言では「あほ」と言う」との説明をくわえて載せている。

 それに比して、フレッシュは国語辞典には載っていない。

 関東では「あほ」ということばを使う機会は少ないが、関東人は「あほ」ということばの存在は知っているのである。ただ「あほ」は、関西人が使うことば、というイメージがあるため、関東では使われないのである。

 そこに、「フレッシュ」と、「あほ」との違いがある。関西圏以外に住む者にとって、「フレッシュ」とは多くの場合、未知のことばなのである。

 したがって、「あほ」のように、それを使う者に地域的な偏りがあろうとも、多くの者が知っていることばは国語辞典には載っているが、「フレッシュ」のように、知っている者に地域的な偏りがあることばは、国語辞典には載っていないのだと考えられるのである。

 この「フレッシュ」ということばも、今後、関西圏から伸展しそれ以外の地域でも広く使われるようになれば、国語辞典に掲載される可能性も出て来るものと考えられる。

1-4、東京でコーヒーフレッシュを発見

 ここまで、滔々としるしてきたところ、偶々、ベストウェスタンレンブラントホテル東京町田での宴席に出席する機会があり、その食後にコーヒーが供された。筆者はふだんコーヒーをブラックで飲むため、コーヒークリームには見向きもしてこなかったが、小稿のことが頭をよぎったので、念のためポウションを見るとそこに、「コーヒーフレッシュ」としるされているではないか。メーカー名は不明であったが、そのホテル名が教えるように、当該ホテルの在所は、東京の周縁部ではあるが、東京の一角に位置する。そこでの宴席に、「コーヒーフレッシュ」が供されたことから、東京でも「コーヒーフレッシュ」ということばが浸透している可能性がでてきた。

 というよりは、筆者は先にしるしたように、コーヒークリームをここ数年つかったことがなかったので、あらためて見る機会がなかったが、筆者が知らなかっただけで、じつは、東京でも「フレッシュ」ということばは使われるようになってきているのかもしれないと思い直した。

 すると、この「フレッシュ」は、関西圏のみで使われていることば、という桎梏から抜け出して、東京をはじめ全国規模で使われつつあることばとしての地位を確立している途次なのかもしれない。

 そうすると、その地位を確立したのち、このフレッシュは、国語辞典に登場することになるかもしれないと考え直したのである。

2、耳毛

2-1、耳毛とは

 耳毛ときいてそれが何を意味するのか、仮に、耳毛を見たことがない方でも、容易にそれを推量することはできよう。耳毛とは文字通り、耳に生えた毛であり、それ以外のものを想像することは困難である。

 この耳毛を筆者は、若者の耳に生えているのを見たことはなく、その出現は壮年以降の男性に限られるようではあるが、さほど珍しいものではない。

 珍しくない毛なので、国語辞典にも載っているだろうと思い、『広辞苑』をはじめ、『大辞林』、『新明解国語辞典』、『三省堂国語辞典』、『デイリーコンサイス国語辞典』、『明鏡国語辞典』、『角川必携国語辞典』のいずれの辞典をみても、耳毛は載っていない。

 しかし、不思議なことに、同じように人体に生える毛である鼻毛は、載っていない国語辞典を見つけるのが困難なほど、多くの国語辞典に載っている。

 身体の各部位に生える他の、髪の毛は当然のこととして、睫毛、眉毛、胸毛、腋毛とともに、『広辞苑』には尻毛までも載っているにもかかわらず、耳毛は載っていない。

2-2、耳毛が国語辞典に載らない理由と考察

 上記のように、人体各部に生える多様な毛が国語辞典には載っているものの、なぜか、耳毛は載っていない。

 理由の1つとして、耳毛はすべての人に生えるものではない、ということが考えられる。

たしかに、女性で耳毛を生やした人は見たことはないし、男性でも若年層ではほとんど見かけることはない。

 しかし、かつて大蔵大臣をつとめた三塚博衆議院議員の耳には毛が生えていたことが有名であり、それを剃って、見えないように整えていたという話を聞いたことはない。

 耳毛が、国語辞典に載っていない理由として考えられるのは、耳毛が生えている人を、広範に見ることが出来るとはいえ、未だ「市民権[3]」を獲得していないからだと考える。

3、ほぼほぼ

3-1、ほぼほぼとは

 この「ほぼほぼ」ということばを初めて聞いたのは、いつのことだったろうか。それほど前のことではない。10年ほど前のことになろうか。初めてこのことばを聞いたとき、「ほぼ」でいいではないか、と思ったことを覚えている。その思いは今でも変わることはなく、筆者は「ほぼほぼ」ということばをいまだに使ったことはない。

 また、このほぼほぼは文字通り聞いたのであって、文字として読むことは、稀である。 くわえて、高齢者がこの「ほぼほぼ」ということばを使っているのも聞いたことはない。

 しかし、いつの間にか、このほぼほぼということばは、「日ごろよく耳にすることば」となっている。

3-2、ほぼほぼの年齢別浸透度

 そこで、文化庁の「国語に関する世論調査」[4]にあたると、「ほぼほぼ」の年齢別浸透度調査の結果が出ていた。それによると、16~19歳の27.7%は「聞いたことはあるが使うことはない」であり、56.6%は「使うことがある」というのである。つまり、16~19歳の8割以上は、「ほぼほぼ」を聞いたことがあることになる。これが20代となると、29.9%は「聞いたことはあるが使うことはない」であり、60.5%は「使うことがある」ので、じつに9割以上は聞いたことがあることになる。

 それに比して、70代は59.3%が「聞いたことがない」のであり、33.3%は「聞いたことはあるが使うことはない」、「使うことがある」は6.7%にとどまっている。

 このように、年齢によって、この「ほぼほぼ」ということばはその浸透度に大きな違いがみられる。

3-3、ほぼほぼが国語辞典に載らない理由と考察

 ほぼほぼが、国語辞典に載っていない理由は、上記文化庁の世論調査にあるように、それを認識している年齢層に、大きな偏りがみられるからではないかと考える。これは、新語・流行語に特有の現象であるが、大抵の場合、若者が新語や流行語を生みだす。

 年齢による偏りに大きな差がみられなくなると、この「ほぼほぼ」は、国語辞典に載ることになると考える。


[1] 黒川乳業株式会社(大阪府豊中市)ウェブサイト参照2019年8月1日http://www.kurokawamilk.co.jp/product/p_original13.html

[2] 一例を挙げると、「商品名「コーヒーフレッシュ・メロディアン・ミニ」がコーヒーフレッシュの語を関西地区に広めた」。参照日2019年8月1日  https://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/1604/20/news022.html

[3] 『広辞苑』(第七版)②比喩的に、人々の間で広く認められ定着すること。「-を得た新語」

[4] 平成29年度「国語に関する世論調査」の結果