町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

早稲田大学大学院 社会科学研究科「現代人権論研究演習」Ⅰ『法令の先占理論』大学での活動

2007.06.02(土)

箇所:早稲田大学大学院 社会科学研究科 政策科学論専攻
科目:「現代人権論研究演習」Ⅰ
開講学期[単位数]:2007年度 通年[4単位]
担当:後藤 光男 教授(早稲田大学 社会科学総合学術院)
題目:『無防備地区条例は平和的生存権を機能させる条例となるか否定されるべきかについての研究』〜「法令の先占理論」を媒介として

1、研究テーマを上記案件に設定した背景
 私は、立教大学経済学部経済学科に在籍した当時、同大学法学部政治学科の新藤宗幸(現・千葉大学法経学部法学科)教授が担当した、「行政学」と「地方自治」の講義を他学部聴講した。
 その際「地方自治」で使用した教科書が、『地方分権』(岩波書店)であった。
 同書によって筆者は初めて、「法令の先占理論」を、知ることとなった。

 それによれば、[1]憲法第94条は、広範な条例制定権を地方公共団体に付与したものの、[2]地方自治法第14条によって、条例制定においては、極めて厳格な解釈が地方自治法制定当初より採用されてきた、とのことである。

 つまり、法律のみならず[3]委任立法である政令の規定が存在する領域においては、法令上に委任規定がない限り、地方公共団体は条例を制定できないとの解釈である。
 しかも法令の機能領域とは、法令によって明示された領域のみならず、黙示的にも当然機能していると考えられる領域も含むとされたのである。

 こうした理論解釈が、法令の先占理論と呼ばれ、この解釈が公法学の主流であるがゆえに官庁実務を支配し、地方公共団体の条例制定権を縛っている現状がある。

[1]第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

[2]第14条 1、普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。
2、普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
3、普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

[3]委任立法 HP「All About」より
「政令」
政令とは、内閣が制定する法令のこと。ただし、国会単独立法の原則を踏まえ、国会が制定した法律の委任があるか、法律執行のために必要とされるときのみ制定することができる。法律からの委任があれば罰則を設けることも可能となる。国民に義務を課したり、権利を制約する場合も法律の委任が必要である。
 本来ならば法律で詳細まで決定し、政令でそれを補助するのが筋だが、しばしば法律では大枠しか決定されず、その執行内容の多くを政令に委任されることが多く、これらを内閣(行政府)による「委任立法」とよぶ。委任立法が多くなることは議会制民主主義にとって大きな問題であることはいうまでもない。 

2、法令の先占理論の沿革
 1963年の統一地方選挙以降、横浜、京都、大阪、北九州の政令指定都市において、「中央に直結した地方自治」ではなく、「住民に直結した地方自治」を掲げる一群の首長が登場してくる。
 彼らは社会党・共産党など当時の革新政党の推薦や支持を受けて当選し、自らも「革新首長」と称した。

 また、1962年から始まった全国総合開発計画(全総)にあわせて、新産業都市建設促進法が制定されたことにより、新たなコンビナート建設の一方、東京湾、伊勢湾、大阪湾岸の古くからの工業地帯も、内容と規模を一変させていく。

 その結果、国民所得の向上はもたらされたものの、同時に、この急速な経済成長は、全国各地に深刻な公害・環境問題を生み出した。
 経済成長を優先させるあまり、工場の廃液や排気ガスにたいする備えは、きわめて不十分であったために、四日市喘息、水俣病など少なくない公害を惹起させた。

 このとき、上記の革新首長を戴く自治体は、自治体の自治立法権の確立に端緒を開き、1969年には、美濃部亮吉を知事とする東京都では、画期的な公害防止条例を制定した。
 これは、中央政府の公害関係法令の定める規制基準と対象では、深刻化の一途を辿る公害の防止に有効性をもちえないとの認識のもとに、より厳しい規制基準を「上乗せ」するとともに、規制対象を拡張(「横出し」)したものである。

 「上乗せ・横出し条例」ともいわれるこの条例は、「法令の先占理論」が、実務と学界において主流を占めるなかでの自治体による壮大なる実験であった。

 東京都公害防止条例には、当然のことのように、「法令と条例の抵触」批判が生じたが、現実の問題として公害の悪化に苦悩する自治体は、法令を遵守することによって生じる住民被害を回避するために、東京都と同様の条例を各地で制定していく方途を選択した。
 こうして、官治的な法令の先占理論は、自治体の現場からの批判によって、大きく後退することを余儀なくされた。

 中央政府もまた、1970年12月の臨時国会(「公害国会」)において、公害対策基本法から「経済との調和」条項を削除するとともに、大気汚染防止法や水質汚濁防止法を改正し、規制基準の強化や規制対象の拡大などの「後追い」をはかったのである。

3、平和環境において21世紀の日本が置かれた新たな状況
 20世紀において頻発した国家間の戦争と同種の戦争に、現今の日本が巻き込まれる事態を俄に想定することは困難ではあるが、その可能性を絶無と看做し、安閑裡に日常生活を営むこともまた、甚だ残念ではあるものの、不可能である。
 21世紀劈頭の2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロがその証左となる一例であるが、国家とは別種の組織による日本への襲撃は、ある程度の蓋然性をもって予想される。

 換言すれば、21世紀に入り、日本の市民に、他国市民による攻撃が及ぶことは、むしろ可能性としては増大されたと認識するほうが、実情により相応しいのである。
 まして、「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(通称「武力攻撃事態対処法」)、「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」(通称:「周辺事態法」)が施行されている現状においては、市民が戦争に巻き込まれる事態を想定していた方が、より現実的な対応といえる。

 これに対応し、国際人道法のジュネーブ条約に基づき、戦争協力を拒む「無防備地区」を宣言し、市内に戦闘員や移動可能な兵器が存在しないように努める、「平和都市条例」を制定しようという動きがある。
 それは、この条例こそが、人権の究極である生命の維持、存続に資する、との概念に基づくからである。

4、国際法からみた平和構築
 法律による戦争の抑止を考えた場合、第2次世界大戦後の世界においては、[1]国連憲章第2条4項がその根拠法令に該当する。
 しかし、その実効性となると、はなはだ心許ないものがあるのではないか。

 日本では戦争に反対する場合、憲法9条ばかりが喧伝されるが、国連憲章第2条4項のこともあわせて考えたい。
 尤も、国際法上では、紛争解決の手段としての戦争を禁じた初の国際法である、[2]パリ不戦条約が締結されたのが1928年だったことを併せて考えると、第2次世界大戦の勃発など、その有効性には極めて大きな疑問符がついてしまう。

[1] すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

[2]第1條  締約國ハ國際紛争解決ノ爲戰爭ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互關係ニ於テ國家ノ政策ノ手段トシテノ戰爭ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳肅ニ宣言ス

5、無防備地区の沿革
 無防備地区とは、[1]ジュネーブ条約追加第1議定書第59条に基づき、特定の都市、地域を無防備地域であると宣言することに由来する地区である。
 第59条を要約すると、「紛争相手国の占領を無抵抗で受け容れることを宣言することができる。宣言され、かつその条件が守られている地域を攻撃してはならない」となる。
 その際、禁止しているのは物理的な攻撃のみであり、占領および紛争相手国による統治は禁じられていないことには注意が必要である。
 つまりこの宣言は、「紛争相手国の占領を無抵抗で受け入れる」ことを宣言するものであり、事実上の(都市・地域単位での)降伏宣言である。
当然のことながら、紛争相手国が存在せず、戦時状態にないときは、いかなる地区といえどもこの宣言を行うことはできない。

[1]ジュネーブ条約追加第1議定書(1979年)第59条は、「 いかなる手段によっても紛争当事国が無防備地域を攻撃すること」を禁止し、その無防備地域に次の4つの条件をあげている。
(a)すべての戦闘要員並びに移動兵器及び移動軍用設備は、撤去されていなければならない。
(b)固定の軍用施設又は営造物を敵対目的に使用してはならない。
(c)当局又は住民により、敵対行為がなされてはならない。
(d)軍事行動を支援する活動が行われてはならない。

6、無防備地区条例は審議されても可決例なし
 2006年4月22日に千葉県市川市において、条例制定請求に必要とされる、有権者の50分の1を上回る12、550筆の署名が、市川市選挙管理委員会に提出された。

 これにより、市川市議会定例会において、「無防備条例」が、審議されることとなった。
 その結果、「市川市平和無防備条例の制定について」は下記のような結果となった。

 市川市平和無防備条例の制定について
市民からの直接請求を否決
 6月定例会初日に、条例制定を求める市民からの直接請求(地方自治法第74条第1項の規定による条例制定請求)を受け、市長から提出された「市川市平和無防備条例の制定について」の審議を行いました。
 本会議では、条例制定請求代表者3名に意見を聞き、総務委員会においても、代表者1名を参考人として招致し、市との双方の意見を聞くなど、慎重に審議を行った結果、賛成者少数により否決しました。 
 この条例の趣旨は、ジュネーヴ条約第1追加議定書第59条に基づく「無防備地域宣言」を行うことの他、市民の平和的生存権、市の責務、平和事業の推進、平和予算の計上などについて定めるもので、有効署名数1万1119名(法定数7530名)の署名を集め議会に提出されたものです。
条例の実効性は担保できるのか
問  ジュネーヴ条約第1追加議定書第59条に基づく「無防備地域宣言」を行うというものだが、この条例案を制定して、実効性は担保できるのか。 
実効性はないと判断する
答  ジュネーヴ条約は国が締結し、国の権限に属しているため、仮にこの条例が制定され、無防備地域宣言を行ったとしても、条約の規定による攻撃が禁止される地区として特別な保護を受けることはできない。よって、何ら実効性はないと判断している。
地方自治法に抵触するのか
問  意見書には本条例を制定した場合、地方自治法に抵触する恐れがあるとしているが、抵触するのか。
行政としては抵触すると考える
答  この条例案の内容は、国の事務であり、地方自治法に規定される地方公共団体が行う事務の範囲を超えている。
 また、法に抵触するのか、しないのかは、法の解釈の問題であり、最終的には裁判所が判断を下すことであるが、行政としては限りなく法に抵触するものと考えている。

条例の制定又は改廃の請求とその処理

 地方自治法第74条第1項(抜粋) 普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署をもって、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃の請求をすることができる。

市川市議会【HP】http://www.city.ichikawa.chiba.jp/gikai/tayori/0608/1men.htm#2

 市川市議会に限らず、いくつかの地方公共団体(例、兵庫県西宮市、神奈川県藤沢市、大阪府枚方市、大阪府大阪市)で直接請求が行われ、各議会で審議されたものの、すべての議会においてこの条例案は否決されており、可決された例は過去にない。

7、地方分権改革推進委員会の動き
 2007年5月30日、政府の地方分権改革推進委員会(丹羽宇一郎委員長;伊藤忠商事会長)が、第2期改革の議論を方向づける「基本的な考え方」をまとめた。
 それによると、基礎的自治体である市町村の将来像として、行政面だけでなく財政、立法面でも分権を進めた地方政府を「完全自治体」として確立することをめざす。

 それによれば、議会機能の拡充が必要なことから、自治体の議会が定める条例で中央政府の法令の修正を可能にする「上書き権」の実現も目指す。

8、研究計画
 無防備地区条例こそ、戦争等の災禍から生命という唯一絶対の人権を守るために有用な条例である、という意見があるのを承知した上で、私は、この条例は、「法令の先占理論」から、果たして、成立させることが可能なのか、それとも不可能なのか、それを攻究すべく、本研究科に入学した次第である。

 攻究によってなによりも先ず明らかにさせたいのは、この「無防備地区宣言」は、多くの地方公共団体が現在実施している、いわゆる「平和都市宣言」以上の意味は持ち得るのか、ということである。
 つまり無防備地区を宣言した結果、それを宣言した地方公共団体の市民はその有効性を享受することができるのか、という根本的な問題がそこには包摂されている。

 そもそも、地方自治法第1条の2、あるいは、第14条を閲する限りにおいては、無防備地区を条例化することが可能である、との言説の有効性に疑問を持たざるを得ないが、それを本研究科において明らかにさせたい。

参考文献
新藤 宗幸『地方分権』(岩波書店、1999年)