町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

中野 好夫『アラビアのロレンス』〔改訂版〕(岩波新書)らん読日記

2007.10.19(金)

 デヴィッド・リーン監督によるアカデミー賞受賞作、『アラビアのロレンス』はもちろん名画ですが、今回採り上げるのは、中野好夫による『アラビアのロレンス』〔改訂版〕(岩波新書)です。

 ぼくが新宿武蔵野館で、映画『アラビアのロレンス』を観たのは、中学1年の時でしたから、その面白さを十全に感得することができたのか、といえば、かなり心許ないものがありますが、今般本で読んでみると、あらためてアラビアのロレンスの偉大さ、風変わりさをより深く味わうことができました。

 ロレンスの何よりも興味深いところは、本文229頁にある「事実矛盾をきわめた彼の正体は、彼自身にすら不可解であったのではあるまいか」と、中野が記しているところです。

 「人間ロレンスの秘密を解く鍵の一つは、まず彼の中にいた完全に相対蹠的な二人のロレンス―いいかえれば、かなりの自己露出癖と、反対に、ときには病的なまでの自己隠蔽性とが、異常に交錯し合って彼の中に存在していたことにあるのではあるまいか」(228頁)と記される、このような人物の伝記が、つまらないわけがありません。

 また、本書は、アラブによる叛乱が宗教運動のそれではなく、あくまでも民族運動であったことを踏まえてのロレンス伝なので、小著ながら、映画を観たときに分からなかったアラブ世界のことが、簡明直截に記されており、その意味からでも好著です。