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三遊亭 らん丈

堀 勝洋『社会保障・社会福祉の原理・法・政策』(ミネルヴァ書房)らん読日記

2009.07.02(木)

【箇所】2009年度前期 早稲田大学大学院法学研究科
【科目】「社会保障法研究」Ⅰ
【担当】菊池 馨実 教授
【著者】堀 勝洋 教授(上智大学 法学部)
このレポートは、上記著書の第6章 年金政策の課題(1)−公的年金と私的年金・公的年金制度の一元化−をまとめたものである。

第6章 年金政策の課題 (1)277-329頁
1 公的年金と私的年金
(1)少子高齢化の進展と公私の年金
 「今後、我が国においては、少子化や長命化の進展により、高齢化がさらに進む。このため、公的年金の受給者も増加する。」

 「年金受給者が増えれば年金給付費が増え、国民の負担が増えて、年金制度の維持が困難になる。このため、国は2004年度に制度維持が将来とも可能になるような大改革を行った。」

 「ここでは重要と思われる点を二つだけ指摘し 」ている。
 「第1は、公的年金はいまや国民の老後の生活の柱となっており、もはや公的年金なしには老後を安心して暮らせなくなっているということである。」

 「第2は、年金給付費が膨大になったということである。(略)年金制度は、いまや経済から影響を受けるだけでなく、経済にも影響を及ぼすほど大きな存在になっている。」

 そこで、2004年に年金制度を改正し、「年金財政の問題はほぼ解決した。ただし、将来の財政の推計は一定の前提に基づいているため、出生率が予想より低くなったり、寿命が予想より伸びたりした場合は、必ずしもそのようにいうことができない。」

 改正の内容は下記の通りである。
「年金水準をマクロ経済スライド により徐々に引下げることなどにより、将来の年金財政を安定化させることとした。」
 そのため、「公的年金給付水準はかなり引下げられるため、今後は公的年金だけでは老後の生活が十分に営めなくなると考えられる。」

 その結果、「私的年金は、現在では公的年金を補完するものと位置付けることができるが、今後は私的年金の役割が大きくなって、補完というより連携して老後の生活を支えるものとなっていくであろう」 と著者は予測する。

(2)公的年金と私的年金
 「近年、世界の各国で、年金制度を抜本的に見直す動きが強まっている。例えば、スウェーデンでは、公的年金を社会保険方式で確定拠出年金にするとともに、賦課方式の部分と積立方式の部分に分けるという、画期的な改革を行った。」

 「これらの改革の背後には、経済が停滞し失業率が高止まりする中で高齢化が進み、経済面での国際競争が激化し、国の財政赤字が増大したという事情がある。このため、国家の役割を縮小し、民間の効率性や活力を活用して、危機を乗り切ろうとしようとしている。その一環として、公的年金を縮小し、その分を私的年金にゆだねようとする動きが強まっている。」

 「年金には幾つかの種類がある。年金は長期にわたって定期的に支給される金銭の給付であるため、稼得能力が永久に低下または喪失したとみなされる老齢、障害または死亡を事由として支給されるのが一般的である。」

 「公的年金としては、社会保険方式の年金と社会扶助方式(いわゆる税方式)の年金とがある。社会保険方式の年金としては、国民年金、厚生年金及び共済年金がある。社会扶助方式の年金としては、老齢福祉年金や恩給がある。私的年金の典型的なものとしては、若い時に積み立てた資金を老後に取り崩していく貯蓄型の個人年金がある。」

(3)公的年金と私的年金との違い
 「公的年金と私的年金の違いを明らかにするため、以下では、公的年金の典型としての国民年金・厚生年金と、私的年金の典型としての保険型の個人年金とを、幾つかの項目ごとに分けて比較する。」

1)目的
 「国民年金・厚生年金の老齢年金も個人年金保険も、直接的には老後の生活費を確保することを目的としている。」
 「個人年金保険は公的年金を前提に、老後の生活費を上乗せすることにより、より豊かな生活を送れるようにすることを目的としている。それだけでなく、個人年金保険には、公的年金が支給されるまでの間の生活保障を目的とした、いわゆるつなぎ年金としての役割がないわけではない。(略)いずれも公的年金の補完を目的とするものである。」

 それを踏まえて、「国民年金・厚生年金のより高次の目的は、社会保障制度の一環として、国民の生活の安定や福祉の向上を図り、憲法25条に規定された権利の実現を図ることである。」

2)実施主体
 「国民年金及び厚生年金の実施主体(保険者)は国(社会保険庁)であるが、2010年から非公務員型で公法人の日本年金機構が実施主体になることになっている。(略)

 これに対し、個人年金保険の実施主体は生命保険会社、JA共済等の民間法人である。」

3)加入
 「個人年金保険は任意加入であるのに対し、公的年金は強制加入である。ただし、例外的に任意加入が認められことがある。例えば、自営業者等は60歳になると強制加入でなくなるが、任意に加入することができる。」

4)給付
 「国民年金の基礎年金は、支給要件を満たすすべての国民に支給される。これに対し、個人年金保険では、任意加入であることもあって、加入して保険料を納めた者にしか支給されない。」

 「基礎年金は、加入期間に比例する定額の年金である。被用者年金の額は、保険料賦課の対象となった標準報酬総額に比例する年金である。(略)これに対し、個人年金保険では、掛けた保険料に見合う年金が支払われる。」

 「国民年金・厚生年金は、「生活保障」という公共目的を達成するため、スライドを行うなど制度内で所得移転が行われ、したがって給付反対給付均等の原則は厳格には守られない。」

 その理由としては、「一般に社会保険においては、「拠出は能力に応じ、給付はニーズに応じ」という基本原則に即した制度設計がなされる部分があることなどにより、給付反対給付均等の原則が守られない部分があるからである。」

 「例えば、(略)国民年金の第1号被保険者については、定額の保険料で定額の年金を受けるが、納付保険料総額を受給年金総額との間の保険数理的な均等関係は、制度上は保障されていない。」

 「国民年金も厚生年金も、物価、賃金等の変動に応じて年金額が変えられるスライドがある」が、「個人年金保険にはスライドがない。」

5)保険料
 「国民年金の保険料は、定額の応益負担である。厚生年金の保険料は、賃金に対する定率の応能負担である。これに対して、個人年金保険の保険料は、完全な応益負担であ」 る。

6)財源
 「国民年金の基礎年金の財源は、国庫負担と各年金保険者からの拠出金によって賄われている。厚生年金の保険料は被保険者と事業者が負担し、国庫負担はない。個人年金保険では、当然のこととして国庫負担や事業主負担がなく、加入者個人の保険料と積立金とその運用収入が財源となる。」

7)財政方式
 「年金保険の財政方式には、積立方式と賦課方式がある。(略)基礎年金には独自の積立金はなく、賦課方式で運営されていると考えてよい。(略)国民年金及び厚生年金の財政方式は「修正賦課方式」と呼ばれることが多い。」
 「2004年の年金改正により、約100年後の積立度合を1にすることとされた。「積立度合」とは、積立比率と異なって、年金費用の全額を積立金で賄うとした場合に、何年分の積立金があるかを示す指標である。」

 「個人年金保険は、完全積立方式で運営される。これは、民間法人による年金制度は破綻する可能性があるので、破綻しても年金を支払うことができるように積立金を保有しなければならないからである。」

8)税制上の優遇措置
 「国民年金・厚生年金の被保険者負担分の保険料は、全額社会保険料控除の対象とされている。厚生年金の事業者負担分の保険料は、全額損金(必要経費)に算入される。これに対して、個人年金保険の保険料は個人年金保険料控除の対象になるが、控除額は5万円である。なお、個人年金にはこのほか国民年金基金及び個人型の確定拠出年金があるが、その保険料は年6万8000円までの社会保険料控除が認められている。」との記述があるが、これは、“年”ではなく、“月”の誤植と考えられる。

9)まとめ
 (略)cf.教科書287頁図表6-4

(4)公的年金と私的年金を区別する基準
 「図表6-4によりある程度公的年金と私的年金との違いを理解することができるが、公私の年金を区別する基準が何であるかは必ずしも明らかではない。」

 「例えば、公的年金は積立方式でも賦課方式でも運営することができるが、私的年金は賦課方式で運営することはできない。したがって、賦課方式にすることができるか否かは、公私の年金を区別する基準となり得る。」

1)目的
 「国民年金・厚生年金も個人年金保険も老後の生活費を賄うという点では、余り相違はない。しかし、前者は国民の福祉向上といった公共目的を有しているが、個人年金保険は加入する者の私的利益の追求が最大の目的である。」

2)実施主体
 「公的年金は一般に国または公共団体によって実施され、私的年金は一般に私的団体によって運営されている。」
 「実施主体が公的団体か私的団体か、営利を目的としているか否かは、必ずしも公私の年金を区別する上で重要ではない。」

3)加入
 「一般に公的年金は強制加入であり、私的年金は任意加入であるため、強制加入の有無は公私年金を区別する一つの基準となる。」
 それにかんしては、江口隆裕教授による異論があるが、著者は6つの理由を掲げて疑問を呈している。

4)給付
 「我が国は国民皆年金体制をとっているが、年金保険は保険料を納付しない者には年金給付を支給しないのが原則である。国民の中には無所得者・低所得者がいるので、皆年金体制をとるのは非常に困難である。」
 「私的年金では加入・脱退が任意のため積立方式で運営せざるを得ず、積立方式では積立金の範囲内でしか年金を支給できないため、スライドをすることが困難である。これに対し、公的年金では、強制加入であり、かつ賦課方式にすることができるため、スライドをすることができる。(略)スライドのない公的年金はあるものの、スライドができるのは公的年金に限られるという意味で、スライドの有無は公私年金を区別する重要な基準となる。」

5)保険料
 「公的年金では保険料が強制的に徴収されるのに対し、私的年金では加入者が任意に支払う。この点は、公私の年金を区別する重要な基準になる。」

6)財源
 「公的年金も私的年金も、保険の技術を用いる限り保険料が主たる財源となる。公的年金には公費負担が投入されることがあるが、私的保険には投入されない。」

7)財政方式
 「公的年金においては、公権力を背景として加入が強制されるため、賦課方式で運営することが可能である。これに対し、私的年金では加入は任意であり、(略)積立方式で運営せざるを得ない。(略)賦課方式の年金制度は公的年金制度に限られるという意味で、賦課方式か積立方式かは公私の年金を区別する基準となる。」

8)税制上の優遇措置
 「税制上の優遇措置は、公私の年金を区別する基準には必ずしもならない。」

9)まとめ
 「給付反対給付均等の原則の適用は、市場における等価交換原則の直接的な表れであり、経済システムに属する私的年金の真髄というべきものである。」
 「政治システムに属する公的年金は、給付反対給付均等の原則に必ずしも厳格にとらわれることなく、国民の生活保障のため必要な措置を講ずることができる。ただし、社会保険も保険である以上対価性は必要である。しかし、等価性は厳格なものである必要はなく、緩やかなもので足りる。」

 江口隆裕教授は、これに対し、(1)年金保険については老齢年金しか対価性がなく、障害・遺族年金は対価性がない、(2)医療・介護保険は対価性がないとするが、これらの意見に対し、堀教授は、下記の理由で疑問を呈する。

 「(1)の障害・遺族年金については、年金制度に加入すべき期間の3分の2以上の期間保険料を納付しなければ受けることができないため、対価性がある」 とする。
 「(2)の医療・介護保険についても、次のような理由で対価性がないとすることには疑問がある。

 第1に、江口は、医療保険・介護保険に対価性がないことの根拠として、保険料納付を受給要件とする規定がないことを挙げている」が、「これらの法律は、被保険者に保険料納付義務を課し、一定の要件を満たす者に保険給付を行うことを規定している。すなわち、医療・介護保険制度内で個々人の負担と給付について規定しているのであり、このことは対価性を表している」 と指摘する。

 「第2に、短期保険の法である医療保険法・介護保険法に、保険料納付を受給要件として規定する必要があるようには思えない。

 第3に、対価性がないとするこの意見は、「社会保険は、保険原理と扶助原理に基づく」とする従来の考えとは異なって、社会保険における「扶助原理」に基づく部分があることをもって対価性がないとしている。「扶助原理」に基づく部分しかないのならば、対価性はないといえるが、「保険原理」に基づく部分がありながら、「対価性」はないとするのは妥当ではない。

 第4に、対価性がないとする江口の意見は、(略)「等価性」がないことを理由に「対価性」がないと述べているが、これは対価性を等価性と混同するものである。

 第5に、旭川市国民健康保険料訴訟の最高裁判決は、「国民健康保険の保険料は、……保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものである」と判示している。」

(5)我が国の各種年金制度の公私の位置付け
 「我が国の個々の年金が公私年金のどこに位置付けられるかについて論ずる。なお、国民年金及び厚生年金は、公的年金と位置付けられるので、ここでは論じない。」

1)共済年金
 「国共済、地共済及び私学共済の年金(共済年金)は、厚生年金とほぼ同じであり、公的年金である。ただし、共済年金には、厚生年金にはない3階部分の職域部分がある。(略)職域部分は公的年金と位置付けることができる。」

2)厚生年金基金による年金
 「厚生年金保険法は、その適用事業所が厚生年金基金を設立することを認めている。厚生年金基金は、2階の老齢厚生年金の一部(代行部分)を運営するとともに、3階のプラス・アルファ部分を支給する。」
 「代行部分の公的年金の要素としては、基金を設立した事業所の従業員は強制加入であり、保険料も事業主によって強制的に徴収され、厚生年金保険法によって相当程度厳しく規制されていることを挙げることができる。(略)代行部分は、本来厚生年金に代わって基金が支給するものであり、したがって公的年金の要素が強い年金と位置付けることができる。」
 「プラス・アルファ部分は、公共目的ではなく、私的目的の年金であり、したがって私的年金ととらえることができる。」

3)国民年金基金による年金
 「国民年金の第1号被保険者は、第2号被保険者と異なって、2階の老齢年金がない。このため、1階の老齢基礎年金への上乗せを図るという趣旨で、国民年金基金制度が設けられた。」
 「国民年金基金による年金は、第1号被保険者の基礎年金の上乗せという意味で公共目的をもたないわけではないが、自分の老後の生活を豊かにするという私的目的の年金であり、したがって私的年金と位置付けることができる。」

4)農業者年金基金による年金
 「農業者年金基金制度は、かつては、(略)経営委譲年金等を支給していた。その後、この制度は財政的に行き詰まり、現在では独立行政法人農業者年金基金が農業者老齢基金、特例付加金等を支給している。」

 「農業者老齢年金は、公私年金の要素がミックスしているが、基本的には私的年金として位置付けることができる。
 特例付加金は、前述した保険料に対する全額助成分とその利子分で賄われる年金であり、公的な要素の強い年金として位置付けることができる。

 経過的に支給されている経営委譲年金は、過去においては、一定の者については強制加入であり、スライドがあり、大幅な国庫負担がなされていた。(略)公的年金に近いものと位置付けることができる。

5)石炭鉱業年金基金による年金
 「石炭鉱業労働者の生活の安定と福祉の向上に寄与し、併せて石炭鉱業労働者の雇用の安定的確保を目的としている。」
 「私的年金の要素としては、(略)事業主の保険料と積立金の運用収入のみで給付費を賄わなければならないことを挙げることができる。したがって、この年金は、私的年金としての企業年金に近いものと位置付けることができる。」

6)心身障害者扶養共済年金
 「その目的は、親などの保護者が亡くなった後、心身障害者の生活の安定と福祉の向上を図ることである。
 この年金の公的年金としての要素としては、地方公共団体が公益目的で運営していること、心身障害者の保護者が死亡した後の障害者の生活保障を目的としていること、などを挙げることができる。私的年金の要素としては、加入が任意であること、スライドがないことなどを挙げることができる。」

7)その他の年金
 「以上のほか、我が国には、確定給付企業年金、確定拠出年金、税制適格年金、財形年金、個人年金等がある。これらはすべて、私的年金と位置付けることができる。」

8)まとめ
 297頁の図表6-6を参照されたい。

(6)公的年金と私的年金との融合化
1)年金制度の融合化の例
 本節において筆者は、諸外国における「公私年金の要素がミックスした年金制度を幾つかに類型化して論」 じている。
 「第1は、公的年金制度が民営化された年金制度である。例えば、チリの公的年金制度は、強制加入・確定給付・賦課方式で公的機関が運営されていたが、 1981年に強制加入・確定給付・積立方式で民間が運営する年金制度に移行した。この年金制度は、事業主は保険料を負担せず、本人のみ負担するため、企業年金ではない。」

 「第2は、公的年金制度から適用除外された年金制度である。例えば、イギリスでは、2階の公的年金として、1961年から段階制年金制度が実施された。そして、一定の要件を満たす企業年金については、この段階制年金制度からの適用除外が認められた。」
 「公的年金制度からの適用除外は、民営化ととらえることができる。」

 「第3は、本来は私的な性格の年金であるものを、国家が強制適用する制度である。例えば、フランスの補足年金制度は、労使の協約に基づく年金ではあるが、加入が強制され、スライドがなされ、賦課方式で運営されている。このような年金制度は、私的年金が準公的年金化されたととらえることができよう。」

 「第4は、従来は確定給付・賦課方式であった公的年金制度を、確定拠出・賦課方式に変えた制度である。確定拠出年金は、(略)積立方式の私的年金でしか行えないと考えられてきた。
 この考えを打ち破ったのがスウェーデン、イタリア等の公的年金制度であり、確定給付の公的年金を賦課方式のまま確定拠出年金に移行させた。ただし、確定拠出年金とはいっても、個々人が実際に年金口座に資金を積み立てるわけではなく、それは仮想的なものである。」

 「第5に、保険料に公的助成を行うことによって、私的年金を奨励する制度がある。例えば、イギリスでは、1988年度から公的年金から私的年金への適用除外を促進するため、免除保険料率に2%が上乗せされ、その分公的年金への保険料が軽減された。」

 「第6に、社会扶助方式の公的年金でありながら、将来の高齢化に備えて税が積み立てられている制度がある。ニュージーランドの公的年金がそうであるが、世界に唯一の年金制度であると考えられる。」

 「第7に、老後に向けて、貯蓄を強制させる制度がある。(略)この制度では加入者間でリスクを分散する保険の技術が用いられておらず、したがってこの制度の基本的性格は個人貯蓄であって、年金制度であるとはいい難い。」

2)公的年金民営化等に関する論争
 「公的年金の民営化等は、近年の世界における一つの潮流になっている。このような流れを理論的に整理し、年金制度のあるべき姿を提示したものとして、世界銀行による報告がある。」
 世銀は、「次のような制度にすべきことを提案した。すなわち、年金の中心は民間が運営する確定拠出・積立方式・所得比例・強制加入の年金と」 することである。

 この提案に対しては、国際労働機関(ILO)及び国際社会保障協会(ISSA)、経済学者らが批判を加えた。
 「ただし、今後の少子高齢化と経済成長の低下を考慮すると、公的年金の役割は後退せざるを得ず、それを補うため私的年金の充実が必要となるであろうことは疑いない。」

2 公的年金制度の一元化
(1)年金制度の一元化
1)一元化の経緯
 「年金制度の一元化についての議論は、今に始まったわけではない。社会保障制度審議会の1950年の「社会保障制度に関する勧告」は、社会保障制度の「綜合一元化」の必要性を指摘している。」

 「ところが、(略)その後新たな年金制度が幾つも設けられた。」
 「しかし、1970年代後半ごろから、年金制度を一元化すべきであるとする議論が出始めた。(略)一つは、厚生年金と共済年金との間の格差(略)。もう一つは、(略)日本国有鉄道共済組合の年金財政が悪化したことが大きい。」

 その主な原因は、次のようなものである。
1、年金給付費が増える一方、保険料収入の伸びが鈍化した。

2、年金財政が賦課方式に傾斜し始め、少子化により加入者が減り、年金受給者が増えた。
「その後、1986年から年金制度が大改正され、すべての国民が国民年金制度に加入し、同制度から同額の基礎年金を受けるという形で、1階の年金給付について一元化がなされた。」
「2001年3月に被用者年金制度の一元化に関する閣議決定がなされ」 、それにより、「2004年の年金改正の際、公的年金制度の一元化が政治的に大きな争点になった。」

2)一元化の目的・機能
 「年金制度の一元化の目的や機能としては、(1)給付と負担の公平化、(2)年金財政の長期的安定、(3)国民の利便性の向上、(4)業務処理の効率化などが考えられる。」
 「過去に行われた一元化措置は、「年金財政の長期的安定性」をねらいとするものが多かった」が、2007年の「一元化法案の最大のねらいは、1階の年金(基礎年金)と2階の年金(所得比例の厚生年金・共済年金)が、厚生年金と共済年金でほぼ同じであるにもかかわらず、負担が異なるため、その差を解消することである。すなわち、前記の(1)の「負担の公平化」を図ることが、今回の一元化法案の主なねらいである。」

3)民主党による年金制度一元化案
 民主党は、2004年の通常国会と臨時国会において年金制度を一元化する法案を提出した。
 それは、「1999年改革後のスウェーデンの年金制度にならったものであるが、被用者と自営業者等を一つの年金制度に加入させるところに特徴がある。」

 ただ、民主党案を実現化させるためには、自営業者の所得捕捉が極めて困難な現状では、「被用者と自営業者等の年金制度を統合するには、現在では実現が非常に困難である。」

(2)被用者年金制度の一元化
1)一元化法案の概要
 被用者年金制度一元化法案のごく大まかな内容は、下記のとおりである。
(1)「共済年金の加入者であった公務員も、厚生年金の適用を受ける。」
(2)「厚生年金と共済年金の制度的差異は、原則として厚生年金にそろえる形で解消する。」
(3)以下略

2)一元化法案の背景と特徴
 「2007年に被用者年金制度の一元化法案が国会に提出されたが、その背景には次の三つの要因がある。」
 「第1は、2004年の年金改革の際に、民主党などからすべての年金制度を一本化する法案が国会に提出され」 たこと。

 第2は、「官民格差を解消しようとすることが、今回の一元化法案の背景にある。」

 「第3に、年金制度に対する不信感・不安感が国民にあるが、これを一元化することによって解消しようというねらいがある。」
 その特徴は、本書では三つ挙げられているが、ここでは、「公的年金制度に対する国民の「信頼性」を確保することに重点が置かれている」 ことのみを掲示する。

(3)一元化法案の評価
1)給付と負担の公平性
(1)年金制度における公平性
 「「水平的公平」と「垂直的公平」、「交換的正義」と「配分的正義」を具体的な場合に当てはめると、相反する結果になることが多い。したがって、このいずれの理念を当てはめるかは、具体的な状況に応じて決めていかざるを得ない。」

(2)一元化法案と公平性
1 厚生年金と共済年金
 「公務員と民間被用者とを年金制度において異ならせる根拠にするのは疑問である。」

2 給付面での格差とその是正策
 「一元化法案は、職域部分を廃止するとしている。」
 「ただし、政府と民間の大企業等は、優秀な人材を求めて競争する関係にある。そうすると、(略)公務員の職域年金については、大企業等の企業年金と同じようにする必要があるのではないかとも考えられる。」

3 負担面での格差とその是正案
 「被用者年金制度を一元化することは、公平性の観点から妥当だということになる。」

2)年金財政の長期的安定性
 社会保障審議会年金数理部会は、年金財政の安定性について検証を行った結果、「100年先においては、共済年金の財政の安定性が問題になることが示唆されたわけである。一元化法案は厚生年金と共済年金の財政を一元化するが、こうすることによって上記の共済年金の問題は解決されると考えられる。」

3)国民の利便性
 「年金給付に関しては、年金制度が分立していると、手続が煩瑣になる。例えば、年金の裁定請求を行う際、これまで加入してきた年金保険者ごとに手続を行う必要がある。一元化していれば、一つの裁定請求を行えば足りる。」

4)業務処理の効率性
 略

5)一元化法案の問題
 被用者年金制度一元化法案はおおむね妥当であると著者は考えているが、つぎの3つの点で、その問題を指摘している。
(1)追加費用の削減と恩給期間分の共済年金の引下げ

(2)積立金を、一元化後の年金費用にどのようにして割り当てるか

(3)供出金と交付金

3 考察
(1) 公的年金と私的年金との区別に拘泥する著者の視角は、巷間行われている年金改革論議では、見落とされがちなものではないだろうか。なお、著者はそれに関して、「公私の年金を区別する基準が何であるかは必ずしも明らかではない。」 と記しており、この問題の根の深さを浮き彫りにしている。

(2)小論10頁2)公的年金民営化等に関する論争にあるとおり、世銀へ「の提案に対しては、国際労働機関(ILO)及び国際社会保障協会(ISSA)、経済学者らが批判を加えた」が、その内容は、下記の点に集約される。
1)公的年金の問題点は私的年金にも当てはまる。
2)確定拠出・積立方式の私的年金は給付が不確定でインフレのリスクがあり、低所得者がリスクを負う。
3)移行期の世代は二重の負担が課せられる。
よって、世銀の提案は「リスクが多い戦略(risky strategy)」だと評した。

 「我が国の経済学者もこれ(フェルドシュタインによる賦課方式の公的年金への批判)に影響を受けて、積立方式・民営化論を唱えた」 が、これに対し、

4)スティグリッツらが積立方式移行論を批判し、賦課方式を維持することと積立方式に移行することは等価であるとする等価命題を唱えた。
 いまだに、上記のように、我が国には、積立方式を唱える経済学者があるが、評者は、上記3)の理由を要因として、それに賛同するものではない。

(3)小論12頁で、3)民主党による年金制度一元化案に触れているが、民主党が先月策定した年金改革案は、下記のようなものである。(日本経済新聞2009年6月26日[朝])
民主党は25日、党本部で年金調査会(古川元久会長)の総会を開き、月7万円の最低保障年金を柱とする年金制度改革案を了承した。衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込む。ただ制度移行の手順など細かな制度設計はこれから。消費税率を4年間据え置く方針との整合性も問われる。

■制度を一元化
 民主党案は職種によって国民、厚生、共済に分かれた年金制度を一元化。支払った保険料に応じて給付額が決まる「所得比例年金」と、全額を消費税でまかなう「最低保障年金」の2本立てに改める。自助努力の所得比例年金を基本としつつ、消費税を財源に最低、月7万円を受給できる仕組みをめざす。

 2本立ての制度に簡素化することにより、自分が払った税金や保険料がどのように使われているのか、わかりやすくする狙いもある。具体的には「保険料は自分のため」「税は支え合いのため」といった役割分担が明確になるとみている。

 現行では職種によって制度が異なるほか、全国民共通の基礎年金の財源は税と保険料が半分ずつ。複雑な制度が年金記録問題や未加入者の増加を招き、制度不信を招いているとの指摘がある。

■「歳入庁」を新設
 民主党案によると、給付額は現行制度と同等か、やや上回る水準になる。新制度への移行を円滑にするため、総会では(1)すでに年金を受給している人は現行制度に基づき受給(2)現在保険料を納めている現役世代は現行制度と新制度の合算を受給――などの基本方針も確認した。

 また税と保険料の一体徴収のため「歳入庁」を新設。社会保障給付や納税に利用できる共通の番号制度も検討する。

■移行時期は未定
 具体的な制度設計には詰めを残している。所得比例年金を一定額以上受け取る人は最低保障年金が減るが、その水準は「政権を取って試算しないと責任ある数字は出せない」(古川氏)。2007年参院選で小沢一郎前代表が示した「年収600万円前後で減り始め、1200万円超でゼロ」との基準は「誤解をまねく」として撤回した。

 現行制度から新制度への移行期間も決まっていない。古川氏は「40年をベースに考え、早めていくことも検討に値する」と述べるにとどめた。
 最低保障年金の財源となる消費税については「税率引き上げは当面必要ない」との立場。(1)地方消費税は現状のまま(2)財政赤字の穴埋めには使わない(3)増税時は総選挙で審判を受ける――とした。将来の増税路線に含みを残す内容だ。
■政府・与党は…
 政府・与党は今国会で基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる法改正にこぎつけ「現役世代の収入の50%以上の給付水準」を確保する道筋をつけた。今後は基礎年金の拡充による低年金者対策をめざす。国民年金保険料を所得に応じて軽減し、軽減分を税で補助することで基礎年金の満額支給につなげる案などが有力だ。

 ただ、政府・与党も消費税率の引き上げを先送りしているため、見直しに必要な財源のメドは立っていない。基礎年金の国庫負担引き上げについても2年間は特別会計の埋蔵金を流用しており、安定財源の確保はなお課題となっている。
 民主党は、現段階では野党のため、財源行程表を作成するにあたり、なお、実現化されるには未確定の部分を残している。そのため、党内からも「最終的に実現できない政策が出てきてもやむを得ない」との声が挙がるように、この年金制度改革案にも不分明な部分は少なくない。
 年金制度改革のように、世代をこえて国民に多大な影響を及ぼす改革に、党利党略が入り込むことは、新たな制度への移行が必要とされる場合においても、それを妨げる要因となりかねないため、このような改革には、超党派で取り組むべきものと評者は考える。