『季刊芙蓉』第92号・2012年夏
冬空や手術受け死を間近にす(★)
早仕舞ひするかもしれぬ初時雨
忘れ物を老いのせゐにし隙間風
小正月いつしか向きになる掃除
努力せずとも鼻高くなる真冬
学ぶときをいとほしんで冬ごもり(★)
卒業生笑ふがごとくに泣いてゐる
駅弁を我が家で食うて春寒し
冬空や手術受け死を間近にす(★)
早仕舞ひするかもしれぬ初時雨
忘れ物を老いのせゐにし隙間風
小正月いつしか向きになる掃除
努力せずとも鼻高くなる真冬
学ぶときをいとほしんで冬ごもり(★)
卒業生笑ふがごとくに泣いてゐる
駅弁を我が家で食うて春寒し
菊の花噛むでも飲み込むでもなく
捨て出すととめどなくなり夜半の秋
ふと目覚め月を確かめまた寝入る
木の実拾ふ何の目的なけれども
運針の音がきこえるそぞろ寒
傘の骨旋風(つむじ)に折られ冬に入る
変はらないのに何かが違ふ冬至
わが俳句の師匠、須川洋子先生は、加藤楸邨の指導のもと、「寒雷」同人、塚本邦雄創刊歌誌「玲瓏」同人、現代俳句協会会員でした。
個人的には、立教大学文学部の先輩にあたり、2011年10月17日に永眠されました。
「真打に昇進した平成八年、自らへの封印をいくつかを解きましたが、その一つに作句がありました。
さて、師匠はどうしようかと考えたとき、偶々手にとった立教大学校友会報に、後に師匠となる人の名を見つけ、立教レディス句会に参加させて頂くこととなったのでした。
須川先生の師匠、加藤楸邨が「人間探求派」の一角を占めていたことを知り、須川先生の特長である向日性の所以を理解したのです。」
上記の文章は、須川洋子主宰の俳句誌『季刊芙蓉』第91号に、200字以内の規定により寄稿したものを転載したものです。
夏の陽が暮れて酒呑む物捨てて
見舞後に二人で氷水を飲む
新蕎麦や夫婦喧嘩も一休み(★)
引つ越しの手伝ひ終へて小鳥来る
捨案山子片足上げる犬がゐて
妻にサマーケツトを掛けて酒を呑む
目脂取り一日始まる秋初め
置く場所を変へて物失せ秋の闇
冬の富士見てもおしやべり止めない子
苺をつまみに独酌を重ねる夜
柳にねぶられるほどの強き風
桜見て人を見てまた桜見る(★)
片方の靴下探すうちに梅雨入
谷保駅で蚊に喰われつつ電車待つ
残酷なほど似てる親子に芒種
ひとりでもみかんは旨しふたりでも(★)
新旧の手帳を携行師走人
釘付となる元日の訃報欄
受験票確かめ確かめ道急ぐ
どんど焼おき火でなほも手をかざし
門灯で暖をとる猫遅き春
梅の花振り返り見てバスに乗る
雨降れと祈る子のゐる運動会
だれよりも栗似合ふのはおばあちやん
衣被つい口すぼめ迎へをり(★)
小鳥来る夫婦喧嘩の真つ最中
会議中油虫横切りて行く(★)
小春日に妻と縞馬見に行けり
短日や論文仕上げ空仰ぐ
味噌汁のだいこ大事と噛みしむる
いつの間に砂糖加へず飲む麦茶
ゆうやけをいつまでも見る犬と子と
字余りたる人生また立秋を迎ふ
ぶだうの実と同じ大きさの鼻の穴
秋は突如敢然としてやつてくる
何にでも触る子がゐて夏終る
庭に出て妻と一緒に月を見詰む
黙祷の時間の重し原爆忌(★)
傘を閉じまた傘開く梅雨の入り(★)
ジェットコースターを日がな見詰めて梅雨長し
泳ぐでもないイルカ撫で半夏生
冷奴の旨さ分らぬまま五十路
病院で興味なきテレビ見て梅雨入
選挙カーに手を振る子ども半夏雨
中元の品定めかねコーヒー飲む
寝入る度箱根駅伝順位変わる
ガタつく机に紙をかう春昼
蕾なれど人集まりて花見かな
本会議野次浴びてウグイスとなる
鷲鼻も低い鼻でも穴二つ
一人酒好ましくなる知命の春
浮気せぬまま中年となり春霖
暇つぶしに献血をして四月馬鹿(★)
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打