『都市』第87号・2022年6月
【青桐集】
二人して転んで笑ふ雪の道
下駄おろし久助買ひに春の昼
葉をむきて親の手に置く桜餅
春愁や長き鉛筆持て余し
靴底の画鋲を抜いて夕永し
【都市集】
靴間違ひて戻りたる年賀客
師の逝きて行くところなし明の春
風邪癒えて逆光に見る紫木蓮
戦ひ終へて耳の掃除や春の宵
木蓮に促されての再登校
【青桐集】
二人して転んで笑ふ雪の道
下駄おろし久助買ひに春の昼
葉をむきて親の手に置く桜餅
春愁や長き鉛筆持て余し
靴底の画鋲を抜いて夕永し
【都市集】
靴間違ひて戻りたる年賀客
師の逝きて行くところなし明の春
風邪癒えて逆光に見る紫木蓮
戦ひ終へて耳の掃除や春の宵
木蓮に促されての再登校
【青桐集】
間違ひて妻の歯ブラシ神の留守
ベートーヴェン流しながらの大根干
山茶花の続きを見たく曲がりをり
逆剝けと戦ふ人生冬兆す
言挙げのさかんな子ども賀状書く
【都市集】
師と二人ことば探して薬喰
聾学校光の中に散り紅葉
鯛焼の尻尾肴に酒を呑み
怒られることもなくなり風冴ゆる
木菟啼いて泣いていた子が泣きやんで
秋深む函に入りたる広辞苑
秋闌くる読まないくせに文庫本
雨降りて屋根探しての芋煮会
鵙の贄無言で見入る子どもたち
秋の昼点いたままなる街路灯
時鳥空き家から洩れ聞こえ来る
宿題を終へて金魚を見つめ居り
古書店に周作全集聖母祭
亡き犬の首輪を捨つる今朝の秋
背を伸ばし車椅子乗る秋の朝
教会の屋根から出づる二重虹
柏餅いつの頃から買ひもせで
一渡り睨めまはしゐる青葉木菟
夏めくや楽屋のスリッパ新調し
電車下り初めての町鰻食ぶ
都市集【巻頭】中西 夕紀(主宰)選
春の昼離れ見詰むる紙芝居
終電の網棚にあるチューリップ
コロナ禍の色無き町に春の雨
風光る靴音軽く坂上がる
いくぶんか帯をきつめに初浴衣
背負ふ母重くもなくて木の芽時
都市集 中西 夕紀(主宰)選
掲示板去りては戻る受験生
初雪にカーテン開くるもどかしく
通夜の家声を潜めて火の用心
鳥交る死を知り初めし小学生
薄氷を靴のかたちに踏み抜けり
土器拾ひ決まる人生春一番
「都市の窓」選
マスクして美しさ増す人ありぬ
新米と味噌汁だけの朝の膳
記憶てふ曖昧なもの咳き込みぬ
小春日や耳の掃除を念入りに
失くしてもきつと出てくる冬帽子
羽織紐締め忘れての残暑かな
猪口を伏せコップで受けし菊の酒
秋気澄むパンセ手に取り長椅子に
身に沁むや第一ボタン強く留め
黄落や車列に向かひ敬礼す
都市集 中西 夕紀(主宰)選
落第生布巾の黴を見つめをり
百合を持ちあごを引きつつ撮る写真
田水沸くピンポン球が浮いてをり
厚き本車内に持ち込む帰省の子
真剣にアイスクリーム掬ふ母
ざんばらの力士歌いつ門火焚く
町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打