町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

一橋大学 国際・公共政策大学院「公共法政ワークショップ」Ⅰ大学での活動

2011.09.21(水)

【箇所】一橋大学国際・公共政策大学院 公共法政プログラム
【科目】公共法政ワークショップⅠ
【開講学期】2011年度 夏学期[2単位]
【担当】高橋 滋 教授〈一橋大学大学院 法学研究科:行政法〉
    辻 琢也 教授〈一橋大学大学院 法学研究科:行政学〉
    渡辺 康行 教授〈一橋大学大学院 法学研究科:憲法〉
    米田 順彦 教授〈一橋大学大学院 法学研究科:地方自治法〉
【題目】住民の福祉の増進を図ることを基本とした場合の中核市、特例市に関する一考察−町田市の場合

〔構成〕
1、序論
2、指定都市
3、中核市
4、特例市
5、保健所設置市
6、町田市の場合
6−1、(資料)特例市と中核市に移譲される事務の違いと地方分権一括法により2012年4月以降に町田市へ事務が移譲されるもの
【参考文献】

1、序論
 我が国の「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」 法人 である。

 これは、「1970年代いらいの社会科学における“地域主義”が、自立した経済と政治行政を支える人文地理的単位である「地域」の役割を重んじてきたことの反映が公認されている」 文脈から招来された規定であろうが、20世紀末葉から、我が国では地方自治を重視する声が以前とくらべた場合、格段に高くなったようである。

 その具体的な動きの一例として、1995年に村山連立内閣から提出された「地方分権推進法」案が、制定をみるにいたったことが挙げられる(5月公布、7月施行)。

 同法では、法律として国の役割をはじめて限定的に規定し、「地方公共団体への権限の委譲」 と「国の機関として行う事務」 の「地方自治の確立を図る観点からの整理及び合理化その他所要の措置」 、地方税財源の充実確保、自治体行財政の透明性と住民参加などの分権体制整備を定めていた。

 我が国における、地方分権にいたる志向の萌芽は、1949年とその翌年になされたシャウプ勧告もそのひとつの要因とみることができ、そこでは「市町村優先の原則」が採られていた。これは、「市町村優先の原則を踏まえ、都道府県は市町村を補完し、国は都道府県を補完する役割を担う」 ことであり、このことは、射程を大きくとった場合、教皇レオ13世により1891年に出された回勅(カトリック教会の社会教説)レールム・ノヴァルムに端を発する「補完性の原理」のあらわれとみることができる。

 なお、その際、「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」 とされている自治体なのである。

 筆者が居住する東京都町田市は、普通地方公共団体である。その「普通地方公共団体は、都道府県及び市町村と」 されているが、町田市のような地方公共団体は、「基礎的な地方公共団体」 とされ、「地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理
する」 団体である。

 なお、我が国の大都市については、都道府県と市町村という二層制の貫徹による二重行政の弊害を排除する観点から、政令指定都市制度が確立されたところであるが、それ以外の市については地方自治制度上、基本的に市町村一律主義が採用されてきた 。

 その大都市を本田弘は、「大都市とは決して人口規模の大きい都市をいうのではなく、大都市の果たす機能が他の一般都市とは比較にならぬ程の巨大さと複雑さもつ都市を指す」 と述べているが、たしかに、都市を人口規模だけで規定することには、ある種の危うさが付き纏うこととなろう。

 しかしながら、政令指定都市を除いても、我が国の市町村をみた場合、「市町村の規模、能力、態様等において大きな格差がみられるようになり、また、地方分権推進の観点に立って、基礎的な地方公共団体に対する権限委譲を積極的に進めるためには、市町村の規模能力等に応じた事務配分を進めていくことが、基礎的な行政に責任を持つ市町村の機能を一層充実させていく上で望ましいとの考え方が強調されるようになってきた。(改行)このような流れを受け、一定の規模能力等を有する団体に対して、当該団体が処理することが適当でありかつ処理することが可能な事務権限等について一括して特例措置を講ずる方式として、都市特例としての中核市制度、特例市制度が地方自治法に設けられている」 のである。この特例制度は、「法令上都道府県が行うこととされている事務の一部をそれぞれの市が処理することのできることを規定している」 制度である。

 これに関して、先ほどの本田の意見によれば、「大都市に生ずる諸々の問題を合理的に解決するための制度が必要なのである」 から、それに対応するために、中核市制度、特例市制度がもうけられたというべきであろう。

 この制度の根柢をになう考え方の代表的なものとして、次のものが挙げられる。「一定の地域には、歴史と自然条件に刻印された社会、経済、政治、文化のそれなりに独自な営みがある。この地域的個性こそ、中央(国)からの統治に還元しつくせない自主的な決定権をもつ『地方政府』の存在理由である」 。

 なるほど、「地方政府」とは、2009年12月に地方分権改革推進委員会から出された第2次勧告にも、「自治行政権、自治立法権、自治財政権を有する「完全自治体」としての「地方政府」の確立」がうたわれているところであるため、小稿も地方公共団体を地方政府とみる視角を射程にいれた議論を構築することを目指したい。

2、指定都市
 ここで、中核市、特例市についてみる前に、我が国で初の都市制度となった、指定都市について概観し、どのような経緯で、指定都市制度が創設されたのかを確認したい。

 我が国では、明治以来の近代化に伴い、東京、大阪をはじめとする大都市が形成され、発展をしてきた。「大正時代になると、急速な工業化に伴い、ますます大都市への産業・人口の集中が進み、いわゆる6大都市(東京、大阪、京都、名古屋、神戸、横浜)が形成された。これら6大都市は、他の都市とは隔絶した存在であったため、府県と市との二重行政の弊害が強く意識されるようになっていった。当時の大正デモクラシーの機運の高まりとも呼応して、6大都市では市を府県から独立させることを内容とする特別市運動が盛り上がりをみせた。この結果、1922年には「六大都市行政監督ニ関スル法律」が制定され、6大都市の事務処理に関しては、勅命の定めるところにより、知事の許可・認可が不要となった。」 

 しかし、昭和10年代以降、戦時色が濃厚となり、国家体制の強化に伴い特別市運動は退潮を余儀なくされる。
とくに昭和18年には、東京市が、東京都制に移行したことにより、特別市運動は「失速状態に陥った」 。

 東京が都になったことで、5大市となったものの、戦後になり、当該市は特別市運動を再開させ、昭和22年に施行された地方自治法には、特別市の規定が置かれることとなった。それは、「特別市を都道府県の区域から独立させ、府県と市の権限をあわせもつ特別地方公共団体とする内容のものであった。

 そして、当時の5大市の実態を勘案して、人口50万人以上の市を特別市として法律で指定することになっていた」 。

 しかし、これに対して、5大市を含む府県からは猛烈なる反対運動が起こったため、結局、特別市を指定する法律は施行されないまま推移し、結局、1956年の地方自治法の改正により特別市制度は廃止され、その代わり政令指定都市の制度が創設されることとなった 。

 指定都市の指定要件としては、「人口五十万以上の市」を「政令で指定する」としているが、これまでの運用では、概ね人口100万人が基準とされ、「さらに、平成の大合併に際しては、市町村合併を推進するという国の政策目的から、合併後70万人に基準が切り下げられた。」 

 指定都市は、社会福祉、保健衛生、都市計画等に係る事務のうち、「都道府県が法律又はこれに基づく政令の定めるところにより処理することとされているものの全部又は一部で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができる」市である。

 また、「指定都市がその事務を処理するに当たつて、法律又はこれに基づく政令の定めるところにより都道府県知事若しくは都道府県の委員会の許可、認可、承認その他これらに類する処分を要し、又はその事務の処理について都道府県知事若しくは都道府県の委員会の改善、停止、制限、禁止その他これらに類する指示その他の命令を受けるものとされている事項で政令で定めるものについては、政令の定めるところにより、これらの許可、認可等の処分を要せず、若しくはこれらの指示その他の命令に関する法令の規定を適用せず、又は都道府県知事若しくは都道府県の委員会の許可、認可等の処分若しくは指示その他の命令に代えて、各大臣の許可、認可等の処分を要するものとし、若しくは各大臣の指示その他の命令を受けるものとする」 との特例が認められていた。

 また、指定都市は、「国庫補助金等の交付に関する協議なども、都道府県をとおさず直接国と交渉する。そのため、指定都市は、都道府県と同格などといわれる。」 

 このような指定都市制度であるが、それは、「かつての特別市とは似て非なるものであり、5大市と5大府県の妥協の産物であったかもしれないが、制度創設以来、半世紀を経過し、それなりに安定した制度になってきている」 ようである。

 そして、平成23年現在指定都市は、19市を数えるまでに増えたことと、それにくわえて熊本市も指定都市への移行を目指して準備を進めており、ちかい将来には20市を数えるまでに伸張することからも、「現行の指定都市制度が都道府県、指定都市いずれの側にとっても、完全に満足はできないとしても、それなりに使い勝手のよい制度になっているといえよう。」 

3、中核市
 「中核市制度は、社会的実態としての諸機能、規模能力等が比較的大きな都市について、その事務権限を強化し、行政はできるだけ住民の身近で遂行するという地方自治の理念を実現するために創設された制度である。」 これは、1993年4月に地方制度調査会が行った「広域連合及び中核市に関する答申」を受けて、1994年の地方自治法改正で導入され、1995年に施行された地方自治法252条の22第1項によって規定されたものである。

 そこで、同法252条の22第1項をみると、次のように記されている。「政令で指定する人口三十万以上の市(以下「中核市」という。)は、第二百五十二条の十九第一項の規定により指定都市が処理することができる事務のうち、都道府県がその区域にわたり一体的に処理することが中核市が処理することに比して効率的な事務その他の中核市において処理することが適当でない事務以外の事務で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができる。」

 なるほど、中核市とは、「指定都市が処理することができる事務のうち、都道府県がその区域にわたり一体的に処理す」べきとされた事務以外のものを処理することができる市なのである。

 なお、中核市に関して、指定都市同様に関与の特例の規定は置かれたものの(252条の22第2項)、これを具体化するための政令の規定は少ない。「したがって、指定都市と異なり、多くの事務で、中核市は、都道府県(知事)の関与を受ける扱いとされている。」 

 すると、一般の市よりも、中核市のほうが、処理すべき案件が増えることが、想定されるところとなる。しかし、それは、指定都市よりも少ないものとなるであろう。

 その際、「自治体の規模に自治体の能力が比例するかどうかという疑問」 を、筆者もまたもつのである。確かに、大数の法則からも、多くの住民で構成された地方公共団体は、少ない住民で構成された地方公共団体よりも、その自治体の能力は上回るのかもしれない。しかし、それだからといって、それがつねに保証されるものでもないであろう。

 これを櫻井は、「地方の実力」問題として、地方公共団体の条例制定能力を例に、「これを「受け皿論」といい、地方分権改革を進めようとする場合につねに問題意識としてのぼりながら、それを言い出すと改革を進められない現実があるため、ずっと封印されてきた問題」 として言及している。

 そこにうかがわれるのは、「1970年代いらいの社会科学における“地域主義”が、自律した経済と政治行政を支える人文地理的単位である「地域」の役割を重んじてきたことの反映が公認されている」 ことである。

 ただし、中核市という制度は、指定都市にくらべると、都道府県と連携協力し、事務を実施することが期待されているためか、あるいは、「受け皿論」の関係からか、「中核市の要件に該当する市であっても、中核市になるための申出をしないものも多い」 のが現実である。

 平成23年4月1日現在、中核市は41市 を数えるが、そのなかに都内では中核市の規定にある30万人以上の人口を有する八王子市と町田市は、要件上該当するものの、いずれも中核市ではない。

4、特例市
 特例市とは、政令で指定する人口20万人以上の市であって、中核市が処理することができる事務のうち一定の事務を、政令で定めるところにより処理することができる市である(地方自治法252条の26の3第1項)。これは、地方分権一括法に基づく1999年改正地方自治法によって設けられた制度で、2000年4月1日に施行された地方自治法252条の26の3第1項を根拠とする、比較的最近のものであり、「地方分権に伴う事務権限移譲の受け皿として、新たに設けられた」 ものである。

 なお、特例市に関し、指定都市や中核市同様関与の特例の規定は置かれたものの(地方自治法252条の26の3第2項 )、これを具体化するための政令の規定は少ない。したがって、中核市同様、多くの事務で、特例市は、都道府県(知事)の関与を受ける扱いとされる。国庫補助金等の交付に関する協議なども同様であることから、特例市は、中核市同様に、都道府県と連携協力し、事務を実施することが期待されているといえる。

 このように制度として「多少魅力に欠け、特例市の要件に該当する市であっても、特例市になるための申出をしないものも多いのは、中核市と同様である」 こととなっている。

 平成23年4月1日現在、特例市は40市 を数えるが、そのなかに都内では特例市の規定にある20万人以上の人口を有する八王子市と町田市、府中市、調布市は、要件上該当するものの、いずれも特例市ではない。

5、保健所設置市
 以上みてきたように地方自治法に基づく大都市特例以外にも、個別法に基づく大都市特例制度がある。その代表的なものとして、保健所設置市があげられる。

 地域保健法5章第1項では、保健所は、都道府県、指定都市、中核市その他の政令で定める市または特別区が設置するものとしている。そして、「政令で定める市」として、地域保健所施行令1条3項で、2011年4月1日現在、8つの市 を定めている。これらのなかには、小樽市、八王子市、町田市、藤沢市、大牟田市のように、中核市のみならず特例市でもない市が含まれている。特に、八王子市と町田市、藤沢市は、人口30万人以上を擁し、中核市の要件を満たしている。

 「こうしてみると、(中略)「都道府県事務の市町村への移譲」措置と相まって、市(町村)では、法令上最低限実施しなければならない事務のほかは、実施する事務を選択しているともいえそうである。」 

6、町田市の場合
 筆者が住む町田市の人口は、425,129人である 。
 したがって、「政令で指定する人口五十万以上の市(以下「指定都市」という。)」 には、該当する市ではないが、政令で指定する人口三十万以上の市である、「中核市」 ないしは、政令で指定する人口二十万以上の市である、「特例市」 には、要件上該当する地方公共団体である。

 平成7年4月1日に制度が施行された中核市は、平成23年4月1日現在旭川市をはじめ41市あり 、平成12年4月1日に制度が施行された特例市は、平成23年4月1日現在八戸市をはじめ40市ある 。

 しかし、町田市は、現在(2011年9月)中核市でも特例市でもない一般市である。

 こうして、町田市は現在のところ、中核市でも特例市でもないが、「住民の福祉の増進を図ることを基本」とした場合、「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として」 中核市あるいは特例市となること、または中核市あるいは特例市とならないことが、町田市民にどのような影響を及ぼすのかを考察することが、来年度提出する修士論文の目的である。

6−1、(資料)特例市と中核市に移譲される事務の違いと地方分権一括法により2012年4月以降に町田市へ事務が移譲されるもの
(略)

【参考文献】(順不同)
兼子仁『新 地方自治法』(岩波書店、1999年)
兼子仁『[改訂版]自治体行政法入門』(北樹出版、2008年)
大森彌『自治体行政学入門』(良書普及会、1987年)
松本英昭『新地方自治制度 詳解』(ぎょうせい、2000年)
佐々木信夫『現代地方自治』(学陽書房、2009年)
本田弘『大都市制度論−地方分権と政令指定都市』(北樹出版、1995年)
伊藤祐一郎編著『地方自治 新時代の地方行政システム』(福田毅執筆「多様かつ機能的な組織及びその運営のあり方」)(ぎょうせい、平成14年)
山口道昭編著『[入門]地方自治』(学陽書房、2009年)
橋本行史編著『現代地方自治論』(明石照久執筆「種類と規模」)(ミネルヴァ書房、2010年)
北村喜宣・山口道昭・出石稔・磯崎初仁編『自治体政策法務』−地域特性に適合した法環境の創造(大石貴司執筆「都道府県と市町村の関係の制度と課題」−権限移譲を中心に)(有斐閣、2011年)
櫻井敬子「地方分権という美名の陰で」『WEDGE』2010年1月号30-33頁。