町田市議会議員 会派「自由民主党」/(一社)落語協会 真打 三遊亭らん丈【公式ウェブサイト】

三遊亭 らん丈

早稲田大学大学院 公共経営研究科「公務員講座」(地方自治法)期末課題リポート大学での活動

2008.01.22(火)

箇所:早稲田大学大学院 公共経営研究科⇒公共経営大学院
科目:「公務員講座」(地方自治法)
開講学期[単位数]:2007年度 後期[2単位]
担当:片木 淳 教授(早稲田大学 政治経済学術院)
期末課題リポート題目:『地方自治法をめぐる論点について』
分量:A4で5枚

1、『地方自治法第99条 意見書提出の際の留意点』
2、緒論:兼子仁『新 地方自治法』(岩波新書)を読んで
 兼子仁(東京都立大学名誉)教授の『新 地方自治法』(岩波新書)p.140に、「議会による対外的な意見書と決議」というチャプターがあり、そこに以下の記述がある。

 “自治体の議会が対外的に、自治施策方針だけでなく国政・国際問題についても、意見書を出したり、決議したりする動きが、かねて目立っている。
 そのほとんどが、つぎに論ずる議員提案であって、請願・陳情などに示された住民の強い希望を反映させ住民に開かれた議会の活動と評価される場合を含む。同時に、地方自治とのつながりが不明な内容のものや、住民コンセンサスを欠くと見られる場合も有るようなので、要注意である。
 (中略)問題は住民コンセンサス(大筋での社会的合意)が有るかどうかで、住民や議会のなかで意見が大きく分かれているような事がらについて、議会内多数決で決議することは、自治体としてふさわしくないのではなかろうか。”

 上記にある、地方自治とのつながりが不明な内容のものが、意見書には少なからずあり、それらは地方自治の観点から、住民に資するものがさほど期待できないのではないかとの観点から小稿を進めたい。

4、「意見書」とは
 ここでいう意見書とは、「地方自治法第99条 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる。」における、意見書を指す。

 「公益に関する事件」とは、自治体の政治行政にかかわる事がらを広く指し、(中略)国からの法定受託事務に関してはもちろん、“国と地方の税源配分”“定住外国人の地方参政権の確立”“北方領土返還”といった国政・外交にかかわるテーマも多く取り上げられている。[1]

 提出先は、内閣総理大臣や各省大臣、国の地方支分部局の長のほか、公庫や公団の総裁など特殊法人も含まれるが、裁判所は当らない。

 意見書の提案は、議員提案に基づくものであって、地方公共団体の長等は提案権を有さない。これは、意見書は地方公共団体の機関たる議会の意思を決定・表明するものであり、地方公共団体の団体意思を決定・表明するものではないからである。

5、意見書案の内容
 意見書案を提案するときは、議員間、会派間で案文を協議する。調整がまとまった意見書案は、議会で十分な審議を行わないことが多い。提案理由説明−質疑なし−委員会付託省略で、せいぜい討論を行うぐらい。即決の典型である。甚しいときは提案説明を省略することもある。[2]

 民主主義の根幹をなす、住民とともにある議会という観点からは、提案説明、質疑、討論をより詳細、丁寧に行うほうが、開かれた議会の実現に資すると思われるが、残念ながらそれはいまだ議会に根付いていない、というのが現状ではなかろうか。

 このほか、意見書案の内容を充実させるため委員会に付託し、参考人として住民の出席を求め意見を聞くことも重要であると考えられる。

6、全会一致のときのみ提案する慣行
 議会によっては先例等により、会派または議員の意見が一致したときにのみ、意見書案を提案することを暗黙裡に決めているところがあると聞く。

 これを批判する立場から、“これでは全会一致になる事項であれば問題ないが、利害があって一致しないときは提案できない。議員の半々で一致しないときは理解できるが、少数の反対で提案できないときは不自然である。全会一致は望ましいが、少数に振り回される議会であってはならない。”と、[2]のp.54にあるように、野村は、全会一致でなくとも議会は、意見書を提出することに躊躇することはない、との立場をとっている。

 しかし筆者は、それと対峙する、冒頭に引いた兼子の意見に、与するものである。
 つまり、“住民や議会のなかで意見が大きく分かれているような事がらについて、議会内多数決で決議することは、自治体としてふさわしくないのではなかろうか”、と考えるのである。なぜならば、当該普通地方公共団体の公益に関する事件についてのものであることが、法律の意図している意見書であるにもかかわらず、全会一致でない意見書は少なからず、当該地方公共団体の公益とは認識できない事件についての意見書であることが見受けられるからである。

 次章で、実例を挙げながら、それを検証したい。

7、意見書にみるその実例1
 筆者もその一員である町田市議会において、平成19年第3回定例会(9月議会)で、筆者が属す保健福祉常任委員会が、平成20年4月から施行されようとしている後期高齢者医療制度に関し、委員会提出議案として、『高齢者の医療の確保に関する法律の適切な運用を求める意見書』を提出した。

 内容を摘記すると、1 保険料の設定は高齢者の生活実態に即したものになるよう、現在の国民健康保険の保険料の額以下とすること。2 高齢者の負担や市の超過負担が生じないよう、必要な財政措置を行なうこと。3 後期高齢者医療制度が円滑に行なわれるよう、速やかに必要な情報を提供すること。
 以上を、地方自治法第99条の規定により意見書として提出したところ、全員賛成のもと、同意見書は議会において可決した。

 上記意見書は、地方自治とのつながりが不明な内容のものでないことは、明らかである。

 後期高齢者医療制度に重大な問題点を見出した町田市議会保健福祉常任委員会では、上記の意見書を提出したのであるが、早稲田大学商学学術院の土田武史教授も、下記のような指摘をしている。

 “高齢者医療制度をめぐる問題は、高齢者を多く抱えざるを得ない国保制度の問題でもあり、国保をはじめとする医療保険制度の改革とワンセットで行わなければ実効性が乏しくなる。” [4]

 このように、後期高齢者医療制度は、まさしく地方自治と密接な繋がりをもつ国保制度の問題であり、それを改善させるためには、厚生労働省をはじめとする中央官庁に対する意見書は、有効な一手段であることは論を俟たない。

 したがって、上記意見書は全員一致の賛成という採決の結果をみたのであろう。

8、意見書にみるその実例2
 これに対し、議員提出議案として、『「沖縄戦」をめぐる教科書検定意見の撤回を求める意見書』が、町田市議会に提出されたが、この意見書は地方自治とのつながりが不明な内容のものという視点を持つことは可能である、との立場を筆者はとる。

 意見書の内容は、下記の通りである。( )内は筆者記。

 “本年(平成19年)3月30日、文部科学省は、平成20年度から使用される高等学校教科書の検定結果を発表したが、先の大戦末期の沖縄戦における「集団自決」の記述について、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」との検定意見を付し、日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除・修正させた。
 これに対し、沖縄県議会をはじめ、沖縄県内41全市町村の議会が、教科書検定意見の撤回と「集団自決」に関する記述の回復を求める意見書を可決・提出した。
 沖縄県議会の意見書は、「去る大戦で国内唯一の地上戦を体験し、一般県民を含むおおくの尊い生命を失い、筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられた県民にとって、今回の削除・修正は到底容認できるものではない。よって、本議会は、沖縄戦の実相を正しく伝えるとともに、悲惨な戦争を再び起こさないようにするためにも、今回の検定意見が撤回され、同記述の回復が速やかに行なわれるよう強く要請する」と述べている。
 私たちも、共通の思いである。
 よって、国会及び政府に対し、今回、文部科学省が行なった沖縄戦における「集団自決」の記述についての検定意見を撤回し、同記述を回復させることを強く求めるものである。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。”

9、意見書への筆者による反対討論
 上記議員提出議案は、多数によって可決されたのであるが、採決前に、筆者は本会議場演壇において同提出議案について、反対討論を行なった。内容は下記の通りである。

 (三遊亭らん丈)[筆者注:筆者の登録議員名は三遊亭らん丈]それでは、私は、議員提出議案第25号 「沖縄戦」をめぐる教科書検定意見の撤回を求める意見書に反対の立場から討論をさせていただきます。
 反対の立場なのではありますが、この意見書、私は一から十まで全部反対というわけではございませんで、例えばこの本文の5行目にございます「沖縄県議会をはじめ、沖縄県内41全市町村の議会が、教科書検定意見の撤回と「集団自決」に関する記述の回復を求める意見書を可決・提出した」といったところは、なるほど、すばらしいなと思うのでございます。
 ところが、今、市川議員[筆者と同一会派の議員]も触れておりましたけれども、この意見書というものは、ご存じのように、地方自治法第99条にございます「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる」となっておりまして、ここは言うまでもなく町田市でございますので、じかに沖縄戦とどのような関係があるのかなということで、私、この地方自治法の精神を尊重したいという意味で反対の討論をさせていただきました。[3]

10、意見書への危惧-その1
 筆者は、「沖縄戦」を巡る教科書の記述に関する意見書を、町田市議会に提案することに反対しているわけではない。ただその行為は、上記反対討論にある通り、“当該普通地方公共団体の公益に関する事件”という、地方自治法が想定する目的からは逸脱しており、地方自治とのつながりが不明な内容のものに該当しているのではないかと、危惧しているのである。

 同種の意見書を、沖縄県内にある地方議会が提出するのであれば、“当該普通地方公共団体の公益に関する事件”であることは明白であるために、筆者もそれを多として、率先して認めるのである。
 しかし、意見書は、“当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる”のであるから、沖縄戦に関する記述に関する意見書は、この場合、当該普通地方公共団体、つまり、この場合は町田市であるが、町田市の公益に関する事件とは言い難いのではないかという意見を、筆者は持つのである。

 それに対して、町田市民である、たとえばある高等学校の生徒が、「沖縄戦」に関する記述のない教科書を使用するという事態に立ち至った場合、その生徒は町田市民であるのだから、“当該普通地方公共団体の公益”に該当する、という考え方も成り立つのかもしれないが、それでは、“当該普通地方公共団体”という概念が、あまりに広く取られすぎてしまうのではないかという考えを含意したうえで、上記反対討論を筆者は行なったのである。

11、意見書への危惧-その2
 意見書に関し、筆者が危惧するもう一つの理由は、意見書を提出することによって、当該地方議会を含む当該普通地方公共団体は、その案件に関しての責任を、中央政府等の提出先に転嫁することによって、当該普通地方公共団体においても解決に資すると考えられえる施策を行なうことを、ともすれば怠ってしまうことがあるのではないか、という点である。

 国会が悪法を作ったから、その皺寄せが、われわれ地方公共団体にきてしまう。したがって、その悪法を改正、あるいは廃止していただきたい、という類の意見書を当該関係機関に提出することも、地方自治法を運用するという観点からは、大事なことではあるが、その意見書を提出後、当該機関が直ちにその法律を改正するとは、通常は考え難い。
 将来的には、改正されることがあるかもしれないが、それには相当の時間が要するものと考えるのが、至当であろう。ならば、現に困却している市民に対して、当該普通地方公共団体は、いまある制度を利用し、できることを施策として実行することもまた、同じように大事だと筆者は考えるのである。

12、意見書への危惧-その3
 これは、ある特定の議会のことを指しての論考ではないが、意見書を提出することを党利党略に利用する向きもあるのではないかと、それを危惧するのである。

 つまり、ある施策を実現させたいと企図する少数政党ないし少数会派は、少数であるがゆえに、他政党、他会派の賛同を得、多数を構成しない限り、決してその施策を実現させることはできない。

 しかし、意見書の提出であれば、他の政党ないしは会派の賛成も期待できると判明した段階で、少数政党ないし会派は、意見書を提出することによって、その支持者と一般市民に対して、当該政党ないし当該会派は、このような意見書を中央政府に提出したという事実をアピールできるのである。

 しかしそれは、その政党ないし会派によって解決できないことの、当該普通地方公共団体内における補償作用といえるのではないか。もしもそうであるのならば、これは、意見書の提出の仕方としては、地方自治法が想定していない事態といえるであろう。

13、受理された意見書
 意見書の提出先は、内閣総理大臣や各省大臣、国の地方支分部局の長のほか、公庫や公団の総裁など特殊法人も含まれるのであるが、それはどのように受理されるのであろうか。
 たとえば、参議院では以下のように受理される。
 地方議会からの意見書の提出、1.地方議会からの意見書について、参議院では、意見書を受理した後、その件名及び提出議会名を参議院公報に掲載し、関係委員会に参考送付している。関係委員会では、参考送付された意見書がどのように扱われているのか、それは小稿の任ではないので触れないが、誠に覚束ない思いがするものである。

14、最後に
 “地方自治とのつながりが不明な内容の”意見書は、提出することに筆者は積極的な意味を見出せない。その趣旨から、[2]p.55にある“現在は意見書が多すぎる。”との記述が、なされたのであろう。地方自治体にとって意見書は、両刃の剣ともいえるのではないか。

【参考図書等】
[1]兼子仁『新 地方自治法』(岩波書店、2006年)
[2]野村稔『地方議会改革宣言』(ぎょうせい、2003年)
[3]町田市議会会議録簡易検索 平成19年9月定例会(第3回)10月10日−07号http://gijiroku.gikai-machida.jp/voices/
[4]早稲田大学商学学術院 土田武史教授「問題の多い高齢者医療制度」http://www.asahi.com/ad/clients/waseda/opinion/opinion31.html